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海彦・山彦


Feb.18.2004





かおる
今回は、どんなネタを持ってきたんですか?

つづき
ネタとはなんじゃね?! せっかくわしが、古代社会の研究に勤しんでおるというのに。

かおる
でも、言葉遊びや、語呂合わせばっかりじゃないですか〜?

つづき
言葉というものを、よく観察すれば、その言葉が生まれた社会背景が見て取れるということじゃ。
ここでも、古代の工房、いわば、古代ギルド社会の有り様が、浮き彫りになったじゃろう。
これでも、わしは、ひとつだけの語句から、他の語句を連想するのではなく、
グループとして関連性のある語句を拾い集める、という手法で、
単純な語呂合わせに陥らぬよう、気を使っているつもりじゃぞ。
そうすることで、言葉の真の意味が見えてきたはずじゃ。

かおる
ええまあ、ご苦労は感じますけど……。

つづき
ここでは、「か・つ」の関係を調べておったのじゃが、
うっかり、ある語句を見落としてしまったようじゃ。 「かり(狩り)・つり(釣り)」じゃ。
かおる
そういえば。 あ〜、それで、今回は、「海彦・山彦」というわけなんですね?
ちょっと、かいつまんで、紹介しておきましょう。



海彦 山彦


昔、海彦、山彦、という兄弟がいた。
海彦は、海で漁をし、山彦は、山で狩りをしていた。

あるとき、ふたりは、互いの道具を交換した。
海彦は、弓をもって、山へ狩りに出かけた。
山彦は、釣り針をもって、海へ漁に出かけた。
しかし、山彦は、魚に逃げられ、針を無くしてしまった。
山彦は、海彦に、そのことを告げるが、許してはくれなかった。

山彦が、海辺で悲しんでいると海の神が現れた。
神のお告げで、山彦は、小舟に乗り、海の神の宮へとたどりついた。
そこで、3年を暮らし、山彦は、トヨタマヒメと恋仲となった。
事情を打ち明けると、失った釣り針も、魚の口からみつけることが出来た。
トヨタマヒメは、山彦に「潮満つ玉」と「潮干る玉」という知恵を授けた。
山彦は、地上へ返っていった。

山彦は、海彦に釣り針を返すとともに、呪いをかけた。
貧しくなった海彦は怒り、山彦のもとへ攻め入るが、
海の潮が、山彦に味方をしたために、海彦は溺れてしまった。
海彦は、山彦に許しを乞い、服従を誓うこととなった。





つづき
海彦は、海へ釣りに行った。 山彦は、山へ狩りにいった。 ここでも、「かり(狩り)・つり(釣り)」は、
対応関係なのじゃな。 そして、「海・山」もまた、対応関係にあるということが、暗示されておる。
かおる
まさしく、古代の狩猟採集民族が生んだ寓話と言えそうですね。
釣り・狩り・海・山」も、はるか古代に造語された語句ということは、言えるかも。
つづき
釣り・狩り」という言葉を、狩猟採集方法から語彙を探れば、「集める・奪う」という意味になろう。
釣り」とは、糸を吊ることではなく、「魚を集める」ことじゃったのじゃ。
かおる
ほほぅ?

つづき
吊るす」という言葉は、それ自体からは意味が探れぬ。
釣り糸を垂らしている様子」から、「吊る」という語彙が生まれたとすれば、しっくりくるのじゃ。
こうして、ヤマトコトバの生まれた順番や、経緯、時代背景が探れるというものじゃな。
魚を集めるという意味が「つり」であったなら、
おそらく、古代では、縄を使って漁をすることも、すべて「さかなつり」と呼んでおったのじゃろう。

かおる
さかなとり」とも、言いますけどね。
一度に獲れる漁から、「つ・と」を区別していたのではないでしょうか?
つづき
ともかく、「集める・奪う」という行為は、古代社会で生きるための、もっとも重要な要素じゃったろう。
個人はもちろん、「ムラ・クニ」という集団を率いる指導者にとってもじゃ。
かおる
集める・奪う」を、他のムラからの、人や物をと考えると、弥生時代の略奪戦争が伺えますね。

つづき
うむ。 「集める」とは、指導者の統率力であり、「奪う」とは、武人の戦闘能力であったじゃろう。

かおる
海彦・山彦」では、海彦の釣り針を、山彦が借りますが、うまく釣れずに無くしてしまいます。
しかし、後で、山彦は、海彦に復讐し、海彦との立場が逆転するわけですね? と、言うことは……。
つづき
うむ。
海彦・山彦」が物語る真の意味とは……。

縄文時代から弥生時代へ移り変わる、
古代の軍事政権の誕生を暗喩しているわけじゃ!

かおる
山彦が、クーデターを起して、海彦を滅ぼしたわけか。 物語は、そこでエンドですね。

つづき
紀元前100年頃、鉄剣が生産され、武人が力をつけた頃の、
古代日本でおきた、初めての武力による政権抗争を伝えた伝承じゃったのじゃろう。
かおる
軍事政権を覆す新しい指導者は、ついに現れなかったのでしょうね。
民衆の気持ちは、すさんでいったかも?
つづき
そういうことじゃ。 「海彦・山彦」の物語は、
政権争いに翻弄された、クニの中の民衆の気持ちを映し出しておるのじゃろう。
かおる
原作の日本神話では、海彦・山彦の本名は、
火照命(ほでりのみこと)・火遠理命(ほをりのみこと)とされ、
その後、山彦と、トヨタマヒメの間に、ヒコナギサタケウガヤフキアエズノミコトと言う子供が生まれ、
子孫のカムヤマトイワレヒコノミコトが、神武天皇ということになってるみたいですね。
山彦は、アマツヒコホホデミノミコトという、天孫神アマツヒコホノニニギノミコトの子で、
アマテラスオオミカミの直系というように、日本神話に組み込まれているようです。

つづき
神話の系譜は、額面通りには受け取れぬじゃろうな。
時の政権から、都合よく改竄されておろうからの。
かおる
銅鐸文化を生んだ近畿王朝があったことは、確かみたいですけどね。
それが、大和朝廷に滅ぼされた、出雲やエミシに繋がるのかどうかはともかく。
つづき
では、いったん話を戻そうと思うが、これで、「まつり」の語源も見えてきそうじゃな。
まつり」とは、「」を「集める」という意味に違いない。
かおる
」とは、なんでしょうか?
なんとなく、この場合は「」ではなく、「」という意味に思えますが。
つづき
いやいや、安易に語呂合わせにしてはいかん。
あせらずとも、「」の手掛かりは、いずれ必ず見つかることじゃろう。
以前、ここで、東西南北の語源を調べておったが、「きた(北)」だけが、謎じゃった。
しかし、ここで、コラムを書いた後のことじゃが、「き(k子音)・み(m子音)」が、男女の意味に対応するなら、
きた(北)・みなみ(南)」も、男性名詞・女性名詞の対応ではないかと、気づいたのじゃ。
山のそびえる方角が、男の方角で、海が広がる方角が、女の方角、ということではなかろうか?

かおる
ふむふむ。 では、「まつり」の場合なら、「」が、「k子音」になれば、「」になりますが……。
まつり」が、女性名詞だとすると、男性名詞は「かつり」と、いうことに?
つづき
そうじゃ! 「かつり」は、「かつりて(手)〜かつぎて(担ぎ手)」と変化し、「神輿を担ぐ男」と、
関係しそうな気配じゃな。 すると、男が担ぐ「みこし」とは、なんじゃろうか?
かおる
かつりて(手)〜かつぎて(担ぎ手)」は、ちょっと苦しいような……。
男に担がれる「こし」というと……?
つづき
女の腰」かも知れぬな。 「こし」とは、「腰をかける乗り物」という意味もある。
祭りの神輿が、神様の乗り物となったわけじゃが、古代では、王・天皇の乗り物であった。
かおる
女の腰=王」とは、「巫女」のことでしょうか?

つづき
巫女を乗せた輿を、男が「かつり(担ぎ)」、
巫女が「まつりごと(政)」をしていた様子が伺えそうじゃな。
かおる
ありそうでは、ありますけれど、ちょっと語呂合わせっぽいかな〜?
」の意味も、よくわからないし。
つづき
いや! もうかなり謎は解けたぞよ! 「」とは、「目=人目」のことに違いない!
輿に担がれた巫女は、大衆の視線を集め、政治を執り行ったであろう。


マツリ=大衆の視線を集め、服従させること


古代マツリ用語
(m子音=女性名詞 k子音=男性名詞)

マツリ(注目を集める=政治=祭)
カツリ(偉大なものを集める=権力=かつら)
マツリテ(巫女=政治をする人)
カツリテ(担ぎ手=摂政)
ミコシ(上から見越す=御輿)
キコシ(上から聞く=聞こしめす)
マコト(女は、真実を言う)
カコト(男は、ごまかしを言う)
マドハス(女は、惑わす)
カドハス(男は、騙す)
マド(窓=女は、窓の内)
カド(門=男は、門に立つ)
ツマサ(妻=奥方)
ツカサ(司=役所・役人)
マクル(捲くるのは女)
カクル(隠すのは男)



つづき
このように古代のマツリ用語の語彙を見ると、
魏志倭人伝に書かれた邪馬台国や卑弥呼の様子そのままではないか。
かおる
あれ? 「御輿」の語源が「見越し」になってますけど? そんな解釈で、いいんでしょうか〜?
それに、「かつら」って、何ですか?
つづき
語句を整理すると、「御輿」は、「見越し」が語源かも知れぬということじゃ。 「きこし」があるでな。
ちなみに、「かつる」といえば、名古屋の方言で「ぬすむ」という意味じゃな。
かおる
そんなの知りませんよ。

つづき
それはともかく、「かつら」という語句は、「月の様に美しい男子」という意味らしいぞよ。
か・つら=(尊い・面(目鼻口が集まったもの))=(美形)」という意味じゃろうか?
かおる
かつら」にそういう意味があるなら、「かぐや姫」の語源ともつながってくるかも?
ま・か」には、偉大、尊い、畏敬の意味があるんでしたよね?
つづき
ま・か」は、どちらも「は(ふぁ)」という基語から、派生した神聖な語句じゃろう。
は(ふぁ)」は、身体語をみても、重要な音じゃ。 「はる(春・晴れる)」の語源でもあろう。
かおる
いよいよ、語呂合わせっぽくなってきましたよ〜?

つづき
語呂合わせとて、馬鹿にはできんぞ。 「天津神・国津神」という語句があるが、
あれは、権力を握り、政治にゆとりの出来た頃の、大和朝廷の司が考えた語呂合わせじゃからな。
かおる
と、いうと?

つづき
あまつかみ=天掴み」「くにつかみ=国掴み」、つまり手中に治めるという意味じゃな。
それ以外に考えられまい? 大和朝廷の司も、おちゃめじゃったんじゃのお。 ふぉっほっほっほっほっ。
かおる
へなへな〜。







付録・年表




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