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超古代の古文法(完結編)


August.22.2004





つづき
と、言うわけで、古代の文法は、現在よりもシンプルな姿じゃったと考えられような。

かおる
前回の記事までに、いろいろ書かれてましたが、結局、どんな風にでしょう?
またこのへんで、整理したほうがいいでしょうね。
つづき
うむ。 まず、一語だけで、活用形のない動詞があったのじゃ。
もっとも簡単な、動作を表す語句は、「」であったのじゃろう。








原始時代












つづき
動作が完了している場合、「」母音をつける慣わしになったのじゃ。
有る」の終止形が、「有り」というようにな。
もともと「」が、動作・行為を表す語句で、古代では、「」母音が終止形じゃったろう。
ラ行変格活用は、古代の文法のなごりなわけじゃな。
」と、「」母音で終わるものは、動作が続いており、体言から語句を続ける連体形の意味を持っておった。


未然連用終止連体已然命令
四段活用書く・漕ぐ・知る・待つ・呼ぶ・読む
ラ行変格活用
(る+)
あり




先史時代
動作を終了した語句として
「i」母音を語尾につけた
終止形
動作が完了した
連体形
動作が継続している



つづき
語句を二つ続けて、熟語や語彙を増やすことも出来たはずじゃ。


超古代
語句を二つ続けて、単語を増やした
」と接続して万物の存在を表した
ありある



つづき
」のほかにも、具体的な動作を表す語句が生まれたじゃろう。
着(き)」「蹴(くぇ)」「来(こ)」などじゃな。
最初は、文法など無く、「き?」「こ!」などと言っただけで、
寒くなったねえ、何か着るモノ持ってる?」とか、
おまえ、生意気じゃん、ちょっとこっち来い!」というように、ニュアンスを受け渡し、
古代人の間で、意思をとりかわしていたに違いない。




古代語句
一語の語句だけで、
動詞・名詞・形容等の意味を持ち、活用形は無い
文法は 語句を並べるだけだった
」母音系古代では、一語の語句の多くは、
そのまま動詞としても使われた
狩(か)・然(さ)
他(た)・肴(な)
端(は)・間(ま)
」母音系「上一・二段活用」の原型着(き)・煮(に)
干(ひ)・見(み)
射(い)・居(ゐ)
」母音系「蹴(け)」は、「(蹴)くぇ」と言われていた為(す)・津(つ)
腑(ふ)・蹴(くぇ)
」母音系「下二段活用」の原型得(え)・気(け)
施(せ)
o」母音系「来(く)る」は、「来(こ)」と言われていた来(こ)・秀(ほ)




つづき
古代の文法というと、こんな感じじゃったろう。
ふす」とは、「体が通常でない状態になってる」ことを直接的に表現しておる。



古代文法
ふ(腑)
からだ
 す(為)
状態になる
+V
S:主語 V:動詞
ふす(伏す)
寝込んでいる





つづき
次に、語句を、関連付けて接続するときに、「」母音を使うようになったのじゃ。
いわゆる格助詞じゃな。 「ふ+e」で、「」の原型になるのじゃ。

かおる
へ? まあ、そういうことでもいいけど……。



古代文法
ふ(腑)
からだ(対象物)
 す(為)
状態になる
+e+
S:主語 e:接続母音V:動詞
へす(圧す)
へしゃむ
「へ」(格助詞)




古代文法
ふ(腑)
からだ(対象物)
 す(為)
状態になる
+e++i
S:主語 e:接続母音V:動詞 i:完了母音
へし(圧し)
へしゃんだ
「べし」(推量の助動詞)
(対象物は、)そうなることよ


かおる
いや〜、「べし」が、そんな語源だとは、にわかに信じられませんが。
なんで、いきなり「」が濁音になるんですか?
つづき
へしみ・べしみ」という、へしゃんだ顔の能面があるのじゃ。
場合によって「」と、濁音化しても、不思議ではないようじゃな。
この後、「ふえ」は、「」と合流し、「増えり」とか「減り」とかの動詞になるわけじゃ。
助動詞の「べし」も、その後、「べからず」等、多様に言いまわされることになるのじゃ。

かおる
じゃ、ニャロメとか、ケムンパスの語源もお願いします。

つづき
着(き)」など、一語で、語尾が「」の動詞は、「」母音をつけると、
着(き)」が、「」となって、具合が悪かったじゃろう。
そんなときには、「」を接続して、「着(き)り」とすればよかったのじゃ。
」母音を付けたときも「きれ」となって無問題じゃな。
着(き)」を、活用できるようにしたわけじゃ。 これが、上一段活用じゃ。
ただ、「着(き)」のように、もともと、「」母音を持つものは、そのまま完了の動詞とされ、
あらためて「」を付けることはせず、連体形にしたいときに、「」母音の「」を接続したのじゃろう。



未然連用終止連体已然命令
四段活用書く・漕ぐ・知る・待つ・呼ぶ・読む
上一段活用+る+る+り+e+よ着(き)・煮(に)・干(ひ)・見(み)・射(い)・居(ゐ)


古代動詞活用
活用形はまだ少なかった
未然・連用の用法は定まっていなかった
語句を続けるとき「」母音を接続して已然形とした
未然形
連用形
終止形
動作が完了
連体形
動作が継続
已然形
語句を接続
」母音を接続
命令形
おそらく、
言葉の口調を強めた
完了の助動詞「り」
きれ上一段活用の「着(き)」
くぇ下一段活用活用の「蹴(くぇ)」
昔は「くぇ」と言っていた
これカ行変活用の「来(こ)」
昔は「こ」と言っていた





かおる
たまたま、語尾に「」母音を持つ語句が、そのまま動詞になったから、
上一段活用」のグループが多く出来たんですね? 
つづき
その頃は、「り・る」のように、語尾の「i・u」母音を使い分けで、
活用していた語句も多くあったじゃろう。
やがて、語尾を「」母音にして語句を重ねる用法が生まれ、連体形になったのじゃろう。
さらに語句を続ける場合も、「」を重ねたのじゃ。 便利じゃのう。
それが、「上二段活用」の動詞として固定されたのじゃ。

どうも、このへんの語句は、最初の言い方では語尾は「」母音じゃったのではないか? と感じてきた。
なぜなら、命令形が、「」母音+「」で、これは「」で接続する前の古い言い方のはずじゃ。


未然連用終止連体已然命令
四段活用書く・漕ぐ・知る・待つ・呼ぶ・読む
上二段活用+る+り+e+よ起く・落つ・悔ゆ・懲る・過ぐ・延ぶ


古代動詞活用
活用形はまだ少なかった
未然・連用の用法は定まっていなかった
語尾に「」母音を接続して語句を続ける連体形が完成した
未然形
連用形
終止形
動作が完了した
連体形
動作が継続している
」母音を接続
已然形
語句を接続
」母音を接続
命令形
完了の助動詞「り」
きるきれ上一段活用の「着(き)」
おちおつおつれおち上二段活用の「落つ」
おち」が、元の言い方?
くぇ
「くぇ」と言っていたので、終止形が「く」にならなかった
下一段活用活用の「蹴(くぇ)」
昔は「くぇ」と言っていた
くれ
(連体形にあわせた)
カ行変活用の「来(こ)」
昔は「こ」と言っていた




つづき
出(い)づ」など、語尾が「」母音の語句は、「」母音を接続して「出で」とも、
出(い)づ+り+e」を接続して、「出づれ」とも言うが、
この頃の文法が形成途中じゃったのが原因じゃろう。
まだ、現在の未然形のように、語尾に「」母音を使って接続することは無く、
なんとなく、未然・連用な言い回しのつもりのときにも、「」母音を接続して、
出(い)で〜」と言っておったのじゃろうて。
その当時はそれで良かったのじゃろう。
こうして、下二段活用動詞のグループが出来たわけじゃ。

どうも、このへんの語句は、最初の言い方から語尾は「」母音じゃったのではないか? と感じてきた。
なぜなら、命令形が、「」母音+「」であるが、
もとから語尾が「」母音の動詞でもおかしくないし、
古代では語尾が「」母音の動詞も存在して良かったはずじゃ。
後に、連体形にするとき語尾に「」母音で接続したのではなかろうか?


未然連用終止連体已然命令
四段活用書く・漕ぐ・知る・待つ・呼ぶ・読む
下二段活用+る+り+ee+よ出(い)づ・越ゆ・捨つ・攻む・寄す


古代動詞活用
未然・連用の用法は定まっていなかった
連体形にともない、終止形に「」が使われはじめた
未然形
連用形
終止形
語尾が「
連体形
語尾が「+子音(u)
已然形
語尾が「+子音(e)
命令形
完了の助動詞「り」
きう
(「う」を付けた)
きるきれ上一段活用の「着(き)」
おちおつおつるおつれおち上二段活用の「落つ」
おち」が、元の言い方?
くぇくぇう
(「う」を付けた)
くぇる
(「る」を付けた)
くぇれ
(「れ」を付けた)
くぇ下一段活用活用の「蹴(くぇ)」
昔は「くぇ」と言っていた

(連体形にあわせた)
くる
(已然形にあわせた)
くれカ行変活用の「来(こ)」
昔は「こ」と言っていた
いでいづいづるいづれいで下二段活用の「出(い)づ」
他の語句と接続するのに
」を使ったか、
もとから「いで」とい言い方だった?

この時点で、未然・連用・命令形は活用せず、
古代の動詞の原型を留めている




つづき
もとから語尾が「」母音の語句の動詞化には、「り・る・れ」を、
自動的に、接続したのじゃろう。

古代動詞活用
語尾が「」母音の語句の動詞化には、
(未然/連用)・終止・連体・已然形に、それぞれ、「り・る・れ」を、接続した
」を接続した状態で命令形とした
未然形
連用形
終止形
語尾が「
連体形
語尾が「+子音(u)
已然形
語尾が「+子音(e)
命令形
完了の助動詞「り」
かりかうかるかれかれ五段活用の「狩る」
語尾が[]母音の「」に
り・る・れ」を接続した



已然形
(命令形)
」母音をつけ、
語句を継続する
る+え
(可能+継続)

(行為を続けろ)
可能動詞
る+え+る
(可能+継続+可能)
れる
(とっても可能)







かおる
ここまでで、命令形が変化しないのは、どうしてですか?

つづき
来(こ)」の命令形が、変化しておらぬからじゃ。
おそらく、長きにわたって使用されていた語句は、新しい言い回し(文法)が出来たとき、
そのつど簡単に文法にしたがって変化はしなかったのじゃろう。
活用形が多いのも、そのためじゃろうな。
しかも、口頭で命令するなら、声の調子や表情で、「命令」であることは察しがつくじゃろう?

かおる
でも、文書にしたら、命令形かどうかわからなくなりますよ?

つづき
その通り! これらの古代文法は、日本に文字が生まれる以前の文法なのじゃ!

かおる
うひゃ〜。 なるほど。

つづき
やがて、文字が生まれ、言葉を文章に書き残す時に、命令形は生まれたはずじゃ。
」という語句が語尾に付いたのはなぜか?
かおる
の命令」ですか?(苦笑)

つづき
馬鹿にしてはいかんぞ? その当時、手紙にしたため、命令文を作成したのは誰か?
また、命令書を、代行して作成したのは誰か?
かおる
ええと、読み書きが出来たのは、とても位の高い、高級官吏でしたでしょうね。

つづき
その通りじゃ。 「」の命令というのは、
施政者の代理のようなものじゃ。 
ミカドの命令ですよ」という記号なのじゃな。
葵の御紋のようなものじゃったろうて。
」と、命令されたら、皆は奮い上がり、東征じゃろうが、なんじゃろうが、
はりきって出向いていったことじゃろう。
未然形も、そのような動乱の時代にあって、
〜、おらは、どうすっぺかな〜? いくさに、ゆかぁ?」という、
微妙な意思疎通の問題から必要とされたのじゃ。
そして、新しく作られた動詞では、未然形は、語尾が「」母音、連用形は、語尾が「」母音と、統一され、
大和の歴史が始まる頃には、四段活用が完成していたと言うわけじゃ。



上代動詞活用
新しく作られた動詞では、未然形は、語尾が「」母音、
連用形は、語尾が「」母音と、統一された
「来」→「き」
(古い動詞の未然形に変化はおきなかった)
命令形の語尾に「」がついた
未然形連用形終止形連体形已然形命令形
語尾+a語尾+i語尾+u語尾+u語尾+e語尾+e基本四段活用
いかいきいくいくいけいけ四段活用の「生く」
古代では「ゆく」と発音していた?
「い(ゆ)」+「」で四段活用
語句のみ語句+u終止+る終止+れ語句+よ四段活用以外
命令形には「」が付く

(る+)

(完了)
完了の助動詞「り」
ラ行変格活用
」を加えて未然形に対応した

(変化無し)

(変化無し)
きうきるきれきよ上一段活用の「着(き)」
おち
(変化無し)
おち
(変化無し)
おつおつるおつれおちよ上二段活用の「落つ」
昔は「おち」と言っていた?
くぇ
(変化無し)
くぇ
(変化無し)
くぇうくぇるくぇれくぇよ下一段活用活用の「蹴(け)」
昔は「くぇ」と言っていた?

(変化無し)

(こ+i)
くるくれこ(よ)カ行変活用の「来(く)」
昔は「」と言っていた
連用形が「」になった
いで
(変化無し)
いで
(変化無し)
いづいづるいづれいでよ下二段活用の「出(い)づ」
昔は「いで」と言っていた?

(変化無し)

(せ+i)

(せ+)
する
(す+る)
すれ
(す+れ)
せよサ行変格活用の「す」
昔は「」と言っていた?
連用形が「」になった
しな
(しね+)
しに
(しね+)
しぬ
(しね+)
しぬる
(しぬ+る)
しぬれ
(しぬ+れ)
しねナ行変格活用の「死ぬ」
昔は「しね」と言っていた?
しな・しに」は四段活用の影響か






つづき
ちなみに、「いくさ」の語源は「往く・さ(人称代名詞)」じゃと思われよう。
往(い)く」は、昔は「ゆく」じゃったのではないじゃろうか?
古代では、戦地に行く人を「ゆくさ」と、呼んでおり、
ミカドの為に死ねるか? と聞かれれば、血気盛んな若者は、「おらは、ゆくさ」と、元気に答えたものじゃろうて。
そのような若者が、大勢、峠を越える様を見て、村娘は、じいちゃんに尋ねたそうな。
あれは?」と。
じいちゃんは、悲しげな目で、「いくさじゃよ」と、ちょっと訛って語ったという。
娘は、若者が、無事生還することを祈り、「いけ」と、つぶやいたのじゃ。
しかし、若者は二度と帰っては来らなんだ。
若者は、逝ってしまったのじゃという。




上代文法
(不詳代名詞)
なんだかあそこに
存在することについてふ(腑)
からだ(人)は、
なんだろう?
+V+e++a?
S:主語V:動詞e:接続母音C:補語a:疑問母音
あれは?
あの人は何?
あの方に、おわす、(人)は、何ぞ?




未然形
不詳状態に「」母音をつける
あ+る+あ
(不詳代名詞+存在+不詳)
あら?
(なんだかよくわかんねえよ!)










かおる
どうして師匠は、こんな小ネタに一生懸命になれるのか……?





古典動詞活用表

未然連用終止連体已然命令
四段活用書く・漕ぐ・知る・待つ・呼ぶ・読む
上二段活用u+るu+れi+よ起く・落つ・悔ゆ・懲る・過ぐ・延ぶ
下二段活用u+るu+れe+よ出(い)づ・越ゆ・捨つ・攻む・寄す
カ行変格活用くるくれこ(よ)来る
サ行変格活用するすれせよ
ナ行変格活用ぬるぬれ死ぬ・往(い)ぬ
ラ行変格活用あり
上一段活用i+るi+るi+れi+よ着(き)・煮(に)・干(ひ)・見(み)・射(い)・居(ゐ)
下一段活用けるけるけれけよ蹴る
〜繋がる語句む・ずて・けり・たりべしとき・ことば・ども










付録・年表




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