はじめに戻る

超古代の古文法(その2)


August.19.2004





かおる
前回の補助母音表なんですが……。

つづき
うむ?

かおる
解釈は、とりあえず無視するとして、
あ・い・う・え・お」の母音から、動詞の活用形を考えるのも悪くないとは思いますが、
それにしても、規則性があるのは、「う」は終止形、「え」は命令形、くらいで、
未然形なんて母音のすべてが存在してるのが、逆に規則性が無くて、「文法」とは呼べないのでは?

つづき
いや、そうではない。
もういちど、おさらいをしておこうぞ。



古典動詞活用表

未然連用終止連体已然命令
四段活用書く・漕ぐ・知る・待つ・呼ぶ・読む
上二段活用u+るu+れi+よ起く・落つ・悔ゆ・懲る・過ぐ・延ぶ
下二段活用u+るu+れe+よ出(い)づ・越ゆ・捨つ・攻む・寄す
カ行変格活用くるくれこ(よ)来る
サ行変格活用するすれせよ
ナ行変格活用ぬるぬれ死ぬ・往(い)ぬ
ラ行変格活用あり
上一段活用i+るi+るi+れi+よ着(き)・煮(に)・干(ひ)・見(み)・射(い)・居(ゐ)
下一段活用けるけるけれけよ蹴る
〜繋がる語句む・ずて・けり・たりべしとき・ことば・ども



真の活用表
(動詞の語尾に、母音が接続して活用変化を起こす)

未然連用終止連体已然命令
四段活用かく++ず

書かず
かく+

書きて
書く書くかく+

書け
かく+

書け
書く・漕ぐ
知る・待つ
呼ぶ・読む
上二段活用おつ++ず

落ちず
おつ+

落ちて
落つおつ+

落つる
おつ+

落つれ
おつ+

落ちよ
起く・落つ
悔ゆ・懲る
過ぐ・延ぶ
下二段活用いづ++ず

出でず
いづ++て

出でて
出づいづ+

出づる
いづ+

出づれ
いづ+

出でよ
出(い)づ・越ゆ
捨つ・攻む
寄す
カ行変格活用く+

来(こ)
く+

来て
来(く)く+

来る
く+

来れ
く+

来(こ)よ
来る
サ行変格活用す++ず

せず
す+

して
す+

する
す+

すれ
す+

せよ
ナ行変格活用しぬ++ず

死なず
しぬ+

死にて
死ぬしぬ+

死ぬる
しぬ+

死ぬれ
しぬ+

死ね
死ぬ・往(い)ぬ
ラ行変格活用ある++ず

あらず
ある+

ありて
ある+

あり
あるある+

あれ
ある+

あれ
あり
上一段活用き++ず

着ず
き+

着て
き+

着る
き+

着る
き+

着れ
き+

着よ
着(き)・煮(に)
干(ひ)・見(み)
射(い)・居(ゐ)
下一段活用く++ず

蹴ず
く++て

蹴て
く+

蹴る
く+

蹴る
く+

蹴れ
く+

蹴よ
蹴る
〜繋がる語句(助動詞)
(四段・ナ変・ラ変)




しむ

(それ以外)
い・え・おさす
い・え・おらる
(サ変のみ)
まほし
まし

(助詞)
あ・い・え・お
ばや・なむ
(カ変・サ変のみ)
こ(来)ば・で・そ
ば・で・そ
(動詞)

(助動詞)



けり
たり
たし
けむ
(助詞)

して
つつ
(な)〜
べしとき・こと



ども



接続母音
(基本形)
a・i・e
( あ・い・え )
「う」は無い

( い )

( う )
e+る+e
( えれ )
e+よ
( えよ )
例外
( お )は
カ変のみ

( え )は
下一二のみ

( い )は
ラ変のみ
(口語は、
「る」)
「る」は、
省略可
「る+e」は、
省略可

( い )は
上一二のみ

上一は「よ」
(eが無い)


( お )は
カ変のみ



つづき
このように、未然形には、様々な語句が付くことが出来るということじゃ。
そのため、未然形の動詞の語尾は、様々に活用するのである。
しかし、終止形である「u母音」は、絶対に付かぬのじゃな。
一方、「i母音」が付くのが連用形、「u母音」で終わるのが「終止形・連体形」
「e母音」が付くのが「已然形」で、「命令形」には、「よ」が付くのである。
の命令じゃ」という言葉は、ここから来ておる。

かおる
(聞かなかったことにして)下一二段の連用形や、上二段活用の命令形のように、「い・え」が混じり、
四段活用になりきれないで例外があるのは、どうしてでしょう?
つづき
古代では「i・e母音」の区別が無く、その後、音韻が分かれたか、
「i・e母音」に特別な思いを込めて区別して言い回してか、
文法に影響する重大な変化が社会に起きたか、
母音が、5母音以上あった頃の名残りで、整理される途中なのか、
言葉使いの習慣で変わったとも考えられよう。
特にカ行変格活用の「来る」、下一段活用の「蹴る」、上一段活用の「着る」は、
それぞれ四段活用すると紛らわしいので、言い回しが変えられたとも考えられるじゃろう。
それは、いづれヤマトコトバへの理解を深めれば、答えを得ることが出来ようぞ。

かおる
そうなんですかね〜?

つづき
「e」が、語句を接続しているのは、なんとなくわかるであろう?

かおる
それだけでは、なんとも。

つづき
たとえば、上一段活用の動詞の語彙は古そうじゃな。
言葉の語彙は、生活や狩猟といった、とても日常的なものばかりじゃった。




未然連用終止連体已然命令
上一段活用i+るi+るi+れi+よ着(き)・煮(に)・干(ひ)
見(み)・射(い)・居(ゐ)

古代では、一語で「i」で終わる語句に、「る」を付けて動詞化した
一語だけの動詞は活用変化していない



未然連用終止連体已然命令
上一段活用i+るi+るi+れi+よ着(き)・煮(に)・干(ひ)
見(み)・射(い)・居(ゐ)
上二段活用u+るu+れi+よ起く・落つ・悔ゆ
懲る・過ぐ・延ぶ

語彙が増えて、「る」だけでは足りなくなると、
一語で終わる語句に「く・つ・す・ふ」など、
「u」で終わる語句を付けて二語の動詞を増やした
他の語句と接続して、語尾が活用変化を起こす





つづき
これに、「e」が加わると、下一段活用(蹴る)や、下二段活用の動詞になるのじゃ。
攻む」という、言葉が現れるところを見ると、2世紀頃の、「倭国の大乱」の時期を暗示させるのお。


未然連用終止連体已然命令
上二段活用u+るu+れi+よ起く・落つ・悔ゆ
懲る・過ぐ・延ぶ
下一段活用けるけるけれけよ蹴る
下二段活用u+るu+れe+よ出(い)づ・越ゆ
捨つ・攻む・寄す

文法が発達すると、語句を接続するために、「e」を用いた
そのため、未然形、連用形の動詞の語尾に、「e」が、現れた
子音と結合したとき、「て・へ」などの助詞として出現する。



かおる
下一段活用の「蹴る」は、上二段から変化したわけじゃないでしょ?

つづき
よく見るがよい。 下一段とか、上一段とか、言葉に惑わされるでないぞ。
蹴る」には、下二段活用と同じく「」が、ふくまれておろう。


未然連用終止連体已然命令
上二段活用

i・u」が活用
おつ++ず

落ちず
おつ+

落ちて
落つおつ+

落つる
おつ+

落つれ
おつ+

落ちよ
起く・落つ
悔ゆ・懲る
過ぐ・延ぶ
下一段活用

」が加わる
く++ず

蹴ず
く++て

蹴て
く+

蹴る
く+

蹴る
く+

蹴れ
く+

蹴よ
蹴る
下二段活用

」が消える
u・e」で活用
いづ++ず

出でず
いづ++て

出でて
出づいづ+

出づる
いづ+

出づれ
いづ+

出でよ
出(い)づ・越ゆ
捨つ・攻む
寄す
〜繋がる語句む・ずて・けり・たりべしとき・ことば・ども

「u」は、活用したのではなく、最初から基本語句に含まれている
下二段活用では、「e」が追加され、「i」が落ちた
文法に影響をもたらす、社会変化がおきたのか?




かおる
え〜? じゃあ、まさか、「蹴る」は、下二段活用してたってことですか?
蹴る」のもとの語は、「」で、「くえる(蹴る)」とか、「くえれ(蹴れ)」とか言ってたんですか?
つづき
蹴る」は、文法が整備される前の言葉じゃろう。
じゃから、古代では、蹴ることを、「くぇ」かと、中途半端な音韻で言っていたはすじゃ。
もっと古代では、上二段活用で、「くぇぅ」と、言っていたかも知れぬ。
くぇぃ・くぇぃ・くぇぅ・くぇぅる・くぇれ・くぇよ」と活用していたかも知れぬ。
早口で言うと、「き・き・く・くる・くれ・きよ」となり、
これでは、「来・着」など、他の語句と混同してしまうし、「くぇ」の語感も失われてしまうじゃろう。
そういうわけで、「くぇ」の印象を残すため、「」とし、
」に、終止形の「」を付ける変わりに、「」を付け、 「ける」となったのじゃろう。
あら不思議。 「蹴(くぇ)る」は、下二段活用になってしまうのじゃ。



真の「蹴る」活用表

未然連用終止連体已然命令
下一段活用

下二段活用
くぇ+e?

くぇ+e?

くぇ+u?(+る)

け(る)
くぇ+u?+る

ける
くぇ+u?+れ

けれ
くぇ+e?+よ

けよ
蹴(くぇ)
下二段活用+る+れ+よ出(い)づ・越ゆ
捨つ・攻む
寄す




かおる
本当かな〜?

つづき
実際に「蹴(くぇ)」は、下二段活用をしていたのじゃが、
くぇ」を、終止形に落ち着かせるため、「+る」を接続したことが、特殊なケースじゃったために、
下二段活用には分類されず、「下一段活用」と呼ばれるようになったのじゃな。

もっとも古代の人々は、活用形など厳密に気に留めておらなんだじゃろうて。
けして、「蹴る」が、「下一段活用」であるために存在しているわけではない。

そして、文法は、四段活用へと変遷して行くのじゃな。
読む・書く・知る」という語句が現れるところが、大和の文明開化を暗示させるではないか。



未然連用終止連体已然命令
上一段活用i+るi+るi+れi+よ着(き)・煮(に)・干(ひ)
見(み)・射(い)・居(ゐ)
上二段活用

i・u」が活用
おつ++ず

落ちず
おつ+

落ちて
落つおつ+

落つる
おつ+

落つれ
おつ+

落ちよ
起く・落つ
悔ゆ・懲る
過ぐ・延ぶ
サ行変格活用するすれせよ
サ行変格活用

未然・命令が
」で活用
す++ず

せず
す+

して
す+

する
す+

すれ
す+

せよ
下二段活用u+るu+れe+よ出(い)づ・越ゆ
捨つ・攻む・寄す
下二段活用

u・e」で活用
いづ++ず

出でず
いづ++て

出でて
出づいづ+

出づる
いづ+

出づれ
いづ+

出でよ
出(い)づ・越ゆ
捨つ・攻む
寄す
ナ行変格活用ぬるぬれ死ぬ・往(い)ぬ
ナ行変格活用

未然形に
」が追加

命令形から
」が取れた
しぬ++ず

死なず
しぬ+

死にて
死ぬしぬ+

死ぬる
しぬ+

死ぬれ
しぬ+

死ね
死ぬ・往(い)ぬ
ラ行変格活用あり
ラ行変格活用る+

る+

る+

る+

る+

あり
四段活用書く・漕ぐ・知る
待つ・呼ぶ・読む
四段活用かく++ず

書かず
かく+

書きて
書く書くかく+

書け
かく+

書け
書く・漕ぐ
知る・待つ
呼ぶ・読む
〜繋がる語句む・ずて・けり・たりべしとき・ことば・ども

下二段活用の前後に、サ変、と続き、四段活用が現れる
動詞に接続する語句が増え、未然形の活用語尾「a」が加わる
ナ変、ラ変が、四段活用に影響を与えたと思われる
已然形の「れ」や、命令形の「よ」が取れて合理的になった
連用形の語尾の変化が、「i」になった






つづき
活用形の生まれた時代と、動詞の語句が生まれた時代は必ずしも一致せぬじゃろうから念のため。
その時代の文法が影響して、動詞の活用形が発展していったわけじゃ。
かおる
ええと……前回は、連用形の語尾が「i」音になるのは、「〜タリ」が、「いたり」という語句だったから、
接続したとき影響された、という説明でしたが、下二段活用では、当てはまらないのは、なぜですか?
つづき
それは、「〜タリ」形が、下二段活用の文法が生まれた時代には存在しなったということじゃ。
「いたり」という語句が生まれ、動詞の語尾に接続したために、四段活用という形式が出現したのじゃ。
じゃから、本来の意味では、下二段活用の動詞に、「〜タリ・〜ケリ」をつけるのは間違いであろう。
事情を知らぬ後世の文筆家は、気にせずに使っていたじゃろうがの。

かおる
本当かな〜?

つづき
いつかは、この問題にも「ケリ」がつくじゃろうて。

かおる
それは、ギャグのおつもりですか?








付録・年表




はじめに戻る