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超古代の古文法(補足編)


August.26.2004





かおる
あれあれ? まだ終わらないんですか?

つづき
ああ、わしは、なんという間違いをしでかしたのか?
わしは、とんでもない、愚か者じゃ。
かおる
(なにをいまさら) いえいえ、師匠ともあろうお方が、間違いなど犯すはずもございません!
なにを狼狽しているんですか? 気を確かにもってください!
つづき
もう一度、「」の活用形を見てみい。 連用形のみが語尾に「」が付いておる。
しかし、なぜ「」だけが、連用形に変化をおこしたのか?
他の古代動詞活用形は、変化しなかったというのに!

かおる
それを言ったら、「す(せ)」の連用形も「」、ですよ?
ただの習慣、言葉の言い回しの問題では無いでしょうか?
つづき
わしも、そう思っていたのじゃが……な……。
なぜ、同じような例が、他の動詞にも現れなんだのか?

移行型の、乱れた活用形が、もっと多く存在しないのはなぜなのか?






上代動詞活用表
「来」の活用形は、
古形活用形の連用形のみが、
四段活用に以降したということなのか?
同じような変化が、他の古形動詞に起きなかったのはなぜか?
四段活用型(多い)
未然形連用形終止形連体形已然形命令形基本語句
語尾+a語尾+i語尾+u語尾+u語尾+e語尾+e終止形基本四段活用
いかいきいくいくいけいけいく四段活用
生く
四段活用形移行型(少数)
未然形連用形終止形連体形已然形命令形基本語句
基本語句
(一部、四段変化)
基語+u基語+u+る基語+u+れ語句+よ基本語句ナ変以外の
命令形には
」が付く

(変化無し)

(+i)

()
サ行変格活用
「す」「おはす」
昔は「

(変化無し)

(+i)

(+u)
(よ)カ行変活用
来(く)
昔は「
古形活用型(多い)
未然形・連用形終止形連体形已然形命令形基本語句
基本語句
(変化せず)
基語+u基語+u+る基語+u+れ語句+よ基本語句ナ変以外の
命令形には
」が付く

う」→「きる」
上一段活用
着(き)


はたして「来(こ)」と、「来(き)」は、
同じ語句から生まれた活用形なのだろうか?






つづき
結論から言おう。
(来)こ」と、「(来)き」は、古代では別の意味の動詞であり、
それぞれ動詞化したとき、活用形が似通ってしまったために、2つの動詞が合体してしまった、
ということでは無かったか?
同じような例は、四段活用の他の動詞にも見られるかも知れぬ。



古形活用型(多い)
未然形・連用形終止形連体形已然形命令形基本語句
基本語句
(変化せず)
基語+u基語+u+る基語+u+れ語句+よ基本語句ナ変以外の
命令形には
」が付く

(未然形になった)

(+u)
(よ)カ行変活用
来(く)
昔は「

(連用形になった)

(+u)
(よ)
(以後、消滅)
カ行変活用
来(く)
昔は「

う」→「きる」
上一段活用
着(き)

来(こ)」と、「来(き)」は、古代は、2種類の動詞だった。
四段活用形になるときに、合体してしまった。






かおる
また、どうしてそのようなネタを思いついた……いえ、考えに至ったのですか?

つづき
前回の古代後便覧をよく見てみよ。
わしは、古代語句は、もともと一語で意味を持つものと考えた。
る・ぬ・ふ・む」などの語句を付け加えて動詞化したとき、それらの動詞が、
同じ系統の意味を持つならば、それらは、文法が成立する以前から存在した、
古代語に間違いなかろうと仮説を立てた。
調べてみると、ほとんどの語句は、綺麗に当てはまったのじゃ。

しかし、実のところ、「来(こ)」だけが、うまく当てはまらなかったのじゃなあ。
来(こ)」が、動詞化しても、他の「こる・こふ・こむ」とは、うまく関係し合わぬのじゃ。
「凝る・懲る・米・馬」と、「来る」の語彙とは、何の関係も見出せぬ。

一方、「」のほうは、「きふ(急)」「きる(霧る)」「きゆ(消ゆ)」と、
霧が来たりて、姿が消える、というような、語彙が伺えよう。




備考
あ・有
有る
沐む(穢れを落とす)
あふれる
あに(あぬ?〜無い)
い・入
入る・往く・五
いむ(穢れを避ける)
いふ(いへ?家)
いほ(庵・小屋)
いろ(家族)
いぬ(往ぬ)
う・産
売る・嬉しい
恨む(嬉の否定)
産ふ(出産)
うろ(穴)
うぬ(代名詞)
え・得
得る
えむ(えもいはず)
えふ(繋がる?)
えぬ(得ぬ)
お・御
恩・下る(頂戴する)
恐む・織る
負ふ(重い責任を)
おに(鬼)
おののく
おのれ・おのおの(代名詞)
感謝の気持ち
か・処
(何処か・場所)
離る・帰る
狩り・かて(糧)・勝つ
かむ(神)・噛む
買ふ・換ふ(交換)・貝
かぬ(兼ねる)
かね(青銅?)
かは(川)
欠く・書く・ひっかく
掛ける
き・生
生る
きみ(鬼魅・化け物)
急ふ(さしせまる)
きぬ(着物?)
きね(神官)
霧・消ゆ
(き=過去のこと)
(来の連用形か?)
く・暮
暮る(暮らす?)
昏る・呉る・繰る
くるくる・苦しい
(生活の遣り繰り)
くむ(組む・抱擁)
食ふ・栗・狂う
くぬ(くに?国)
け・気
蹴る(気を放つ?)
けむ(怪訝に思う)
けふ(今日の気げん)
けに(異に)
(変わってる・感心)
こ・来
来(こ)る・心・九
こむ(篭る)
凝る・凍る・懲る
こふ(鼓舞)
こぬ(来ない)
こめ(米)・こま(馬)
生活の場




かおる
じゃ、やっぱり「」は、「来(く)」が活用したと考えても、よかったということじゃないんですか?

つづき
ならば、「」が、「」に、活用した意味も調べねばならぬ。
結局、「」は、「」とは、別の語句じゃったということじゃ。
来ぬ(こぬ)・来よ(こよ)」という語句が、「来る(くる)」と、関連付けられ、
ひとつの動詞の活用形じゃと誤解されたわけじゃ。

かおる
では、「」という意味はなんなんですか?

つづき
ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ。 もう、わしにはすべて見通せた。
こよ・こい」という語句が、「来よ・来い」の意味と誤解させた「」の本当の意味、それは…………。






「こども」じゃよ。









かおる
はぁ。 まあ、そうでしょうねえ。
」は、「」以外では、「子・小」くらいしかないでしょう。
つづき
わしは、「」の基本語句が「」であると突き止めたまでは良かったが、
子(こ)」という語彙を忘れておったのじゃ。 なんという大失態。
かおる
まさに、「策士、策に溺れる」ってやつですか。 いや、「ネタ師、ネタに溺れる」かな?
で、その「子(こ)」は、ちゃんと、動詞として、活用したんですか?
つづき
うむ。 ざっと、こんな風にじゃな。




こ(子)」が動詞化した語句
語句現代語真の意味
子・小・御子供
こよ・こい・こぬ来い・来いよ・来ない子供を呼ぶ言葉
(この語句だけ、来るの動詞になった)
こがす気持ちを焦がす子供がやきもきする
こきり小奇麗?可愛らしいようす
こく転がる
嘘をこく・屁をこく
子供っぽい様子
こける転がる子供の遊ぶ様子
ここ・こころ此処・心中心にあり、大切なもの
こし子供をこさえる所
こさえる=こし+らえる
こすよこす
おこす
越える
子供の使い
子供を立たせる(一本立ちさせる)
子供が成長する
大人を越えて欲しいということ
こそこそ
(係助詞)
子供こそ=子供以上に大事なものは無い
こたふ答える子供の返事
こち・これ・このこちら・これ・この子供の代名詞
こつこつ
こづく
木くず
子供を叩く
こてふ来てふ(来いという)子供の手を引くこと
こと事・言葉子供に関する情事
こな子な子供達
こにくし小憎らしい子供を憎む
こは手強い・怖い子供が怒る様子
こひ子供が親を恋しく思う
こふ媚ふ・媚びる
乞ふ
大人が喜ぶようにふるまう
子供がモノをねだる
こほし恋しい子供が欲しい
こま仔馬仔馬
こみ込み親子と一緒に、こみこみで
こむ子を産む
閉じ込める
寝込む
出産
腹に子がいる
子供が寝ること
こめ子の芽・子の種
こもる篭る出産準備
こや小屋子供のための家
こゆ肥える・太る子が出来て、お腹が大きくなる
子供が成長する
こよなしこれ以上に無いこと子供のこと
こら・こらしめる子供達・懲らしめる子供達を(締める)おとなしくさせる
こりる懲りる子供が懲りる
こる怒る
伐採
子供がされること
木を切る
ころ子供犬っころ
ころす殺人子供を降ろすこと
こわね声色子供の声の調子
こゑ子供の声がすること




かおる
これみんな、子供が語源ですか? 中にはアヤシイのもありそうだけど。

つづき
言葉が多いのは、古代人も、子供を大事にしておったという証じゃな。
ところで、わしは、「愛・恋」と聞くと、
愛は情熱的、恋は純粋に、というイメージじゃったのじゃが、
語源を探ると、まったく逆じゃのう。

」は、そのまま、「あひ=会う・合う」という、
主に男女が会うという意味でしかないのじゃが、
」となると、「こひ=こほしい=子供が欲しい」となって、
えらくリアルで生生しい表現ではないか?


かおる
そうなんですか〜? 変な解釈ばっかりして刷り込みするの止めてくださいよ、もう。

つづき
もっとも、「こひ」と、言葉が縮まってからは、
純粋で穏やかな恋慕の意味合いになったであろうがのお。
かおる
つまんないフォローはしなくていいです。



















付録・年表




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