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超古代の古文法よ永遠に


August.23.2004





かおる
まだ、引っ張るんですか〜?

つづき
前回の最後の方で、上代の動詞活用形を考察してみたわけじゃが……。
わしは、あることに気がついた。
かおる
じゃ、もう一度おさらいということで。
師匠が思いついた上代動詞活用形と、学校で習う古典動詞活用表を見比べてみますか。



上代動詞活用表
古い時代の動詞の未然形・連用形の区別は無かった
新しく作られた動詞では、未然形は、語尾が「」母音、
連用形は、語尾が「」母音と、統一された
「来」→「き」
(古い動詞の未然形に変化はおきなかった)
命令形の語尾に「」がついた
未然形連用形終止形連体形已然形命令形
語尾+a語尾+i語尾+u語尾+u語尾+e語尾+e基本四段活用
いかいきいくいくいけいけ四段活用の「生く」
古代では「ゆく」と発音していた?
「い(ゆ)」+「」で四段活用
語句のみ語句+u終止+る終止+れ語句+よ四段活用以外
命令形には「」が付く

(る+)

(完了)
完了の助動詞「り」
ラ行変格活用
」を加えて未然形に対応した

(変化無し)

(変化無し)
きうきるきれきよ上一段活用の「着(き)」
おち
(変化無し)
おち
(変化無し)
おつおつるおつれおちよ上二段活用の「落つ」
昔は「おち」と言っていた?
くぇ
(変化無し)
くぇ
(変化無し)
くぇうくぇるくぇれくぇよ下一段活用活用の「蹴(け)」
昔は「くぇ」と言っていた?

(変化無し)

(こ+i)
くるくれこ(よ)カ行変活用の「来(く)」
昔は「」と言っていた
連用形が「」になった
いで
(変化無し)
いで
(変化無し)
いづいづるいづれいでよ下二段活用の「出(い)づ」
昔は「いで」と言っていた?

(変化無し)

(せ+i)

(せ+)
する
(す+る)
すれ
(す+れ)
せよサ行変格活用の「す」
昔は「」と言っていた?
連用形が「」になった
しな
(しね+)
しに
(しね+)
しぬ
(しね+)
しぬる
(しぬ+る)
しぬれ
(しぬ+れ)
しねナ行変格活用の「死ぬ」
昔は「しね」と言っていた?
しな・しに」は四段活用の影響か



古典動詞活用表

未然連用終止連体已然命令
四段活用書く・漕ぐ・知る・待つ・呼ぶ・読む
上二段活用u+るu+れi+よ起く・落つ・悔ゆ・懲る・過ぐ・延ぶ
下二段活用u+るu+れe+よ出(い)づ・越ゆ・捨つ・攻む・寄す
カ行変格活用くるくれこ(よ)来る
サ行変格活用するすれせよ
ナ行変格活用ぬるぬれ死ぬ・往(い)ぬ
ラ行変格活用あり
上一段活用i+るi+るi+れi+よ着(き)・煮(に)・干(ひ)・見(み)・射(い)・居(ゐ)
下一段活用けるけるけれけよ蹴る
〜繋がる語句む・ずて・けり・たりべしとき・ことば・ども



かおる
まず、師匠の上代動詞活用表で指摘できることは、「蹴る」が、
くぇる」になってるところですが、「くぇ」だったかどうかはともかく、
蹴る」が、古い時期に下二段活用だったのでは? という説はあるようです。
が、定説には至って無いようですね。
動詞の語尾の母音形で、種類を分けるのは、まあ、よく行われてることなので問題ないでしょう。
で、上二段活用の「落つ」が、昔は「おち」だったとか、
下二段活用の「出(い)づ」が、昔は「いで」と言っていたとか、
そういう話は聞いたことが無いですし、活用形の中で変化していては、確かめようが無いのでは?
どうして、そう、お考えになったのですか?

つづき
表を見ていて、気がつかぬか?
落つ」は、「おち」が活用したものであり、「出(い)づ」は、「いで」が活用したものなのじゃ。
かおる
おち」や、「いで」では、終止形とは呼べませんが?

つづき
いや、わしもそういう考えに囚われていたが、表を見ていて、考えを改めることが出来たのじゃ。
古代では、そもそも、動詞に、終止形があるという概念は無かったじゃろう。
まず、必要があって、語句が生まれ、文法が生まれ、動詞として活用形が発達したのじゃろう。
じゃから、「おち」や、「いで」という語句が、先にあったとしても不思議では無いはずじゃ。

かおる
そうだとしても、根拠は無いのでは?

つづき
活用形の法則性が、その根拠じゃ。
学校では、四段活用、上一段活用、下一段活用、上二段活用、下二段活用、
カ行変革活用、ナ行変革活用、ラ行変革活用、サ行変革活用と、いろいろ覚えさせられるが、
基本は、四段活用か、それ以外か、それだけなのじゃ。


上代動詞活用表
基本活用形は、四段活用か、それ以外しかない

ラ行変革活用は、「り」を完了・終止形とした
ナ変・サ変・カ変は、語尾に「」母音を接続して連用形にした
ナ行変革活用は、語尾に「a」母音を接続して未然形にした
下一・下二・上一・上二段活用は、すべて同じ法則で活用した
(基本語句が違っていただけ)
四段活用型(多い)
未然形連用形終止形連体形已然形命令形基本語句
語尾+a語尾+i語尾+u語尾+u語尾+e語尾+e終止形基本四段活用
いかいきいくいくいけいけいく四段活用
生く

(完了)
完了の助動詞

ラ行変格活用
四段活用形移行型(少数)
未然形連用形終止形連体形已然形命令形基本語句
基本語句
(一部、四段変化)
基語+u基語+u+る基語+u+れ語句+よ基本語句ナ変以外の
命令形には
」が付く
しな
(しね)
しに
(しね)
しぬ
(しね)
しぬしぬしね
(「」は省略)
しねナ行変格活用
「死ぬ」「往ぬ」
昔は「しね

(変化無し)

(+i)

()
サ行変格活用
「す」「おはす」
昔は「

(変化無し)

(+i)

(+u)
(よ)カ行変活用
来(く)
昔は「
古形活用型(多い)
未然形・連用形終止形連体形已然形命令形基本語句
基本語句
(変化せず)
基語+u基語+u+る基語+u+れ語句+よ基本語句ナ変以外の
命令形には
」が付く
くぇくぇ
くぇう」→「ける」
くぇくぇくぇくぇ下一段活用活用
「蹴(け)」
昔は「くぇ
いでいづ
(いで+u)
いづいづいでいで下二段活用
「出(い)づ」
昔は「いで

う」→「きる」
上一段活用
着(き)
おちおつ
(おち+u)
おつおつおちおち上二段活用
「落つ」
昔は「おち


基本語句の解釈を、終止形ではない、と、考えれば、
下一段活用・下二段活用・上一段活用・上二段活用は、
すべて同じ法則で活用していることがわかる
もともとの、語句の語尾が「」ではなく、「e・i」母音だったということ




かおる
え〜〜〜????
下一・下二・上一・上二段活用は、すべて同じ法則を持った一つの活用形だったということですか?
つづき
やっと、わかったかね?
たとえば、下二段活用というのは、基本語句が「いで」なのに、
後付けの文法解釈で基本形(終止形)を「いづ」と決めたために、四段活用に比べて、
まるで複雑な活用をしていたように、見えただけじゃったのじゃ。

活用形を理解する、ということは、複雑な活用形に振り回されることではない。
古い時代の言葉、新しい時代の言葉が、それぞれどう作られてきたか、
ヤマトコトバの成り立ちを、流れを、古代人の心を読み解くということなのじゃ。

かおる
こ、これは、嘘です!
師匠は、純粋な僕を、あやしげなレトリックに引っかけて騙そうとしているんですね!?
つづき
もっと現実を見たまえ。 学生の頃、活用形を暗記させられ、どれほど苦労したことか?
活用形など、暗記したところで、いったい実生活になんの役に立つというのか?
まして、その、教科書に載っている国語学者の作り上げた活用形自体が、
実は、なんの実態も無い、真の意味の古語や、日本語の成り立ちを見ようともせず、
ただ、複雑な活用形の中に埋没させ、現代人の目から多い隠すだけでしかない、
おろかしい砂上の楼閣であったのじゃからな。

かおる
それは、暴言です! 師匠のほうが、間違っているんです!
僕は、そんな世迷言は、絶対に認めません!
つづき
なぜ、目を背けるのじゃ?
今、ここに明らかになった古形動詞の言葉の数々は、
はるか大和朝廷が興る以前から、日本の風土の中で培われた言葉ばかりであるはずじゃ。
これこそ、真のヤマトコトバ、いや、弥生語といえよう。
それらの言葉一つ一つを、あらためて噛み締めてみるのも、よいものではないかな?
真の意味で、古典を学ぶということになるのではないかな?

かおる
でもですよ? 「隠る」「恐る」「忘る」「触る」「垂る」「埋む」「分く」「生く」「帯ぶ」などは、
四段活用形が古くて、後の時代に、二段活用するようになったみたいですよ?
つづき
一部の語句には、先祖帰りしたものもあったんじゃないのかね?
大和時代の人々に、一斉に四段活用が普及したわでもなかろう。
ずっと、古形活用を使っていた人々が、後に、読み書きをするようになったために、
新しい文献に、古形の活用形が見られる、ということも、考えられるであろう。

かおる
そんなの、どんな解釈だって、成り立ちますよ!
師匠のおっしゃっていることは、仮説にすぎません! 証拠がなければ認められません!
つづき
では、かおる君は、今回の記事のことはすっぱり忘れて、
国語学者の考えた、複雑な活用形にしがみつこうと言うのじゃな?
かおる
僕は…………教科書を信じます!

つづき
かおる君……。 そうかね……。 わしは、残念じゃ。 が、いたしかたあるまい。
個人の信条は自由じゃからの。
かおる
だって……。

つづき
ん? わしのことは、もうよい。

かおる
だって、「古形動詞の基本形をすべて書け」なんて、
テストに出されたら困ります!

「来(こ)」「せ」「おはせ」 「隠れ」「恐れ」「忘れ」「触れ」「垂れ」「埋め」「分け」「得(え)」「経(へ)」「寝(ね)」 「着(き)」「似(に)」「煮(に)」「干(ひ)」「見(み)」「後り」「推み」「顧み」「鑑み」「試み」 「射(い)」「沃(い)」「錆び」「居(い)」「率(ゐ)」「用ひ」「蹴(け)」「死ね」「往ね」 ……………………………………


……なんていう古形の動詞をすべて暗記するより、
今の活用形を覚えた方が簡単でしょう!?

つづき
そは、言ふるやもなりけり。









付録・年表




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