<6>

「女の人のここって、意外と……"ふっくら"……してるんだ」
 自分でも「馬鹿だなぁ」って、しみじみ思う感想を口にしたら案の定、叱られた。
「ばっ、馬鹿カズキ! あんまり見るなと言った……ひゃうう! へっ、変なところに息をかけるなぁ!」
「変なところじゃなくって、大事なところだよ」
 可愛らしい悲鳴を上げた斗貴子さんに、俺は敢えて謝らず、反論した。
「へっ、屁理屈だっ! そんなのは……」
 条件反射で振るわれたであろう美女の右手が、俺の頭を叩いたけれど……。それは余りにも弱々しく、殆ど"撫でた"と評すべきものだった。だ、か、ら……俺は、"行為"を止めない。
 普段目にする通り、斗貴子さんの太股には無駄な贅肉などなく、引き締まっている。それは、彼女が"戦士"である証だ。
 しかしながら、けっして筋肉質な訳ではない。
 腰から始まって、オシリ、股、膝、脹脛を伝い、爪先へと続くなめらかなライン。細いけれど細過ぎず、鍛え上げられてはいても、女性特有の柔らかさをそのままに保つライン!
 若さに溢れ、弾力に富んだ、素晴らしく瑞々しい肌と相まって、斗貴子さんは正に"戦乙女の脚線美"を具現しているのだ!!
「やぅ! だっ、だから摩るなって……」
「のんっ。摩らなきゃ。結構……重要な事だよ、これは」
 右掌で、斗貴子さんの左太股を。左掌で、右太股を。……俺は遠慮無く摩り、撫で回している。
 ――だって、斗貴子さんには少しでも気持ち良くなって欲しいから。

 十分ほど前……。
 長い抱擁を終えた時、斗貴子さんは俺の腕をすり抜け、徐に立ち上がったんだ。
「あ……」
「フフ♪ カズキ、そんなに心配そうな声を出すな。逃げる訳じゃない。ちょっと……その………脱ぐだけだ…………」
 物欲しげな声を出してしまった事を反省するのも忘れ、斗貴子さんの顔をじっと見つめた俺。
「……カズキ?」
 わざとでなしに、心の中でだけ「はい」とか何とか返事して、俺は目を逸らせられなかった。
 スカートのファスナーに指を掛けたまま、動きを止めた斗貴子さんの頬に朱が強くなって……。
「聞こえたなら……後ろを向いていなさいっ!」
 嗚呼。自戒せずにいて、また叱られてしまった。
 ……ファスナーの降りる音……。
 ……衣擦れの音……。
 斗貴子の声がかかるまで、二分足らずにすぎなかった筈だけど……。
 掻き立てられる妄想に、ひたすら耐える"苦行"の、何と長かったことか!
「カズキ……もうっ……いい……ぞ…………」
 緩みそうになる頬を引き締めつつ、振り返った俺。
 まず視認したのは、"結合の儀"開始時における、斗貴子さんの宣告内容だった。
 ――あ……、やっぱり上は脱がないんだ……。でも、これはこれで……スゴク……♪
 セーラーカラーは外されたものの、斗貴子さんの上体は、常時の制服に包まれている。一方、腰から下の衣類は、全て……取り除かれていた。
 恥じらう彼女の大事な"処"を、前で合わされた両手が、俺の視線からモジモジと隠している。
「斗貴子さん……スカート……」
「あ……ああ……脱い……だ……。汚れると……困るから……」
 予告していたショーツのみならず、スカートまで脱いだ斗貴子さん。
 これは……、なまじ全裸になるよりも……背徳的で……エロチックで……。
「そっ、そんなに嬉しそうな顔をするなっ! カズキ……言っておくぞ! これ以上は……ウエは……脱がないぞっ! ……脱いでしまったら……"賢者の石"錬成は言い訳で……最初から……キミと"する"ことしか頭になかった……そうなってしまう……」
 だんだん声が小さくなり、後半は聞き取り不能になってしまった。それでも黙っているのが気恥ずかしいらしく、斗貴子さんは口の中でゴニョゴニョ言っていた。
「うん、分かるよ。初めてなんだし……正直ちょっと残念だけど……斗貴子さんの全部を見るのは、次の機会にするよ♪」
「分かってくれたか……って、ちょっとマテっ! "次の機会"って!!」
 湯気を吹きそうなほど真っ赤になり、ムキになって言い募ろうとする斗貴子さんが可愛くて……。
「コラッ、カズキ笑うな!」
「おかしくて笑うんじゃないよ。斗貴子さんが……可愛くて仕方ないんだ♪」
 恥じらいと憤慨とで、ますます赤くなる斗貴子さんではあったが、異論も反論も口から発しなかった。
 だって、どっちも聞く気の無い俺が、またも「ギュッ♪」って、抱き締めたから。
「もうっ……キミは……」
「大好き……大好きだ……」
 馬鹿みたいに、同じ言葉を繰り返しながら……。俺は、斗貴子さんを両腕でしっかり抱え、ゆっくりと絨毯の上に横たわらせたんだ。

 そして、今……。
「ん〜〜♪ 斗貴子さんの匂い♪」
「ばっ! かっ、嗅ぐな、そんなとこっ!」
 クンクンと、些かワザとらしく鼻を鳴らす破廉恥に、斗貴子さんは俺の髪を掻き乱す動作で応えた。
 俺は今、絨毯上に両膝を着いている。のみならず、両肘も着いている。斗貴子さんの脚の間で、平伏するようなポーズだ。
 前述通り、左右の手で愛しい人の右と左の太股を撫で回しながら、俺は斗貴子さんの股間に、顔を埋めるようにしていた。
 そして……、血走っているであろう我が両目は、"乙女のトップシークレット"に全力で見入っている。
 写真集等から想像していたより、ずっと薄い"茂み"に……。
 その下の、完全に未知なる領域に……。
「もっ、もう見るのは……充分だろう……っ」
「そんな……これからだよ」
 ――"ハマグリ"って、喩えるそうだけど……。
 霊薬のせいなのだろう。麗しの君が最も恥ずかしい場所から、独特の香が立ち上っている。汗を煮詰めたような、それでいて甘い匂いが♪
 霊薬の効果は、視認もできた。俺が撫で易いように脚をM字型に開かせている為、斗貴子さんの処女谷も合わせて広げられている。そこから……とても濃いピンク色をした肉の姫花が、縁を覗かせていた。いかにもヌルヌルしていそうな液に、濡れ光って……。
 ――これがっ、斗貴子さんの……"大陰唇"っ!

「カズキ……もう……」
「……困ったな」
 愛読書の"夜の常識コーナー"には、「挿入前に前戯をタップリしてね。いきなり突っ込んだら、彼女は痛がって、嫌われちゃうぞ」とあった。
 経験なんて無い以上、せめて知識を活かそうと思ったのだが……。
 女性器を口で愛撫する"クンニ"は、
「キミの唾液が混ざってしまうと、錬成に支障が出る」
という理由で断念。
 指と唇で"全身マッサージ"は、「霊薬のせいで……触られると……電気が流れるように……ビリビリするんだ。ゆるして……」
と懇願され、却下。服を着ている上半身も、布地が擦れて駄目と言われてしまった。
 ――ならば、挿入位置と角度の微調整を兼ねて……。入口だけでも、ちょこっとだけ……。
 いっそのこと、斗貴子さん自身でさえ、どうなっているか分からない"秘境"を、指でそっと辿ってみようかとも思ってしまった。
「だっ、駄目だっ! もし指で」
 だが、当たり前ながらこれは、血相の変わりかかった訴えを、皆まで聞かぬうちに中止した。愛しい人の処女を、うっかり指で奪ってしまったら……。俺、一生後悔するだろう。
 本で読んだような……、姫壷の"極浅い部分"を、膜を傷付ける事無く掻き慈しむ芸当……。
 ――今の俺には危険すぎました。ゴメンナサイ。

 相談(?)の結果、"脚を撫でつつ、じっくり姫花を観察する"次第となったのだ。
 ……しかし、斗貴子さんは、前戯とも呼べないこの行為すら、もう終わりにしろと言う。
 強めに、指で筋を付けるように脚をしごくと、斗貴子さんは何度もシャクリ上げた。
 ときおり処女花へ向け、強弱付けて息を掛ける。すると、上品な桃色に染まるオシリが、「ビクンッ!」と跳ね上がるんだ。
 俺の吐息に合わせ、斗貴子さんが腰で、妖しいルーンを描くたび……。秘められし肉花は、芳しい蜜を溢れさせ、いっそう自身を濡らすのだ。覗く肉の花ビラも、だんだん厚みを増してきている。
 ――ナンテ……オモシロイ……♪
 普通の睦事なら当然成し得る"愛撫"も何もない以上、この程度は徹底的にしておかなくちゃと、俺は愚考する。
「ちゃんと……ちゃんと、下準備をしてからでなくちゃ……」
「ひゅあっ……カッ、カズキ! ひゅうぶん! もう、だいじょうぶだからぁ!」
 頬を朱に染めて、小さな子供がする様に、斗貴子さんはイヤイヤと首を振る。口元に右手の甲を寄せ、左手で俺の髪を掻き乱す。地肌に食い込む爪の感触が、ココチイイ……。
「でもぉ♪」
「あん……っ!」
 唇をすぼめ、狙いすまして姫花の肉ビラを吹くと、斗貴子さんが"のけ反る"ことと言ったらっ!
 麗人の右手は、声を漏らすまいとして失敗し、その曲げられた両膝は「こんな恥辱には、もはや耐えられない」とばかりに、ガクガク震えた。
「ユル…シテ……モウ……イジメ…ナイデ……」
 にやけ緩む脳味噌に、斗貴子さんの細い声が届き、漸く俺は、両手の動きを止めた。
 ――未練……断ち切りがたし……。なれど!
 探求心を喚起して止まない"魅惑の園"から、ゆっくりと顔を起こした俺は、ほっと息を吐く斗貴子さんに、"次"を語りかける。
「するよ……」
 許可を求めるフリをしながら、ハイハイ武藤カズキは両掌と両膝で微速前進する。我ながら、せっかちな奴だ。
「……斗貴子さん……」
「ひゅっ……覚悟は……出来ている。今更きくな!」
 俺の肉槍は、とっくの昔にカチンコチンになっていて、いつでもジュースティング可能だ。
 いちど内股を擦った穂先が、花ビラの縁に触れた途端、悲鳴を飲み込んだ斗貴子さん。断言した勇ましい調子と裏腹に、その後は「ぎゅうっ!!」と目蓋を閉じてしまった。
「……破瓜の……痛みは、躰を鍵爪で……じっくり容赦なく引き裂かれる……或いは、内側から……焼け石をネジ込まれ……ジワジワ灼かれるのに等しいそうだが……」
 聞くだに痛そうな事を、斗貴子さんは口にする。
 ――いったい誰だよ。斗貴子さんに脅し付ける様なコト、吹き込んだ奴はっ!!
「しかし……霊薬を飲んだから……大丈夫だ。"賢者の石"錬成には……私の……あい……愛液も……必要だからなっ。その点を踏まえ、霊薬には……コホッ……苦痛以外の感覚も、あるようにする効果がある」
 ――それはまぁ、そうでございましょうが……。
 霊薬に媚薬効果がある事は、斗貴子さん自身これまでに、ほのめかしていたけど……。こうもはっきり言われてしまっては、素直に頷けないものがあるなぁ。
「だからカズキは……キミのしたいように……私を抱いて良いんだ」
「……むぅ〜〜」
「ちょっ! こらカズキっ! 何故ここで変な声を出すっ! わっ、私は恥ずかしいのを必死に堪えて」
「ごめん。ただ、これは……その」
 怒っても、先立つ"喪失"の不安に、斗貴子さんは目を閉じたままだ。
 確かに失礼だったと反省しつつ、俺は"変な声"の訳を話した。
「斗貴子さんが痛い思いしないで済むのは、何よりなんだけど。それで、俺が安心しちゃうのは……男として情けない気がする」
「ん? どういうことだ?」
「うん……。"薬が効いてるから安心♪"なんて、薬に負けてるって言うか……。男の責務を放棄してるって言うか……」
「???」
「やっぱり俺としては"自分の能力"で、斗貴子さんを気持ち良く……」
「……あのな」
 頬を赤らめたままではあるが、斗貴子さんは緊張を忘れ、目を開けた。自分に覆い被さろうとする俺を、呆れつつも、幼子を嗜める様な目で叱る。
 ――温かい……。斗貴子さんの、こういう目を見る為なら……。俺は、喜んで道化になるさ。
「エロスは、ほどほどにしなさい。どうして男の子は……直ぐ、エロスに走るのか……」
「好きな人を"悦ばせ"たがるのは、男の本能です! 薬を使うのは、邪道っス! 俺は……自分のチカラだけで、斗貴子さんに気持ち良くなって欲しいです!」
 間髪入れぬ答えに、さしもの斗貴子さんも、何と言ったものか妙案の浮かばない様子だった。
 暫し間を置いて、絶世の美女"津村斗貴子"が宥めるように口にしたのは、俺にとって願ってもない台詞。
「ワカッタ、ワカッタ……。破瓜の後、私がどの程度に快感を覚えられるかは……実のところ、キミ次第だ。頑張ってくれ……あ゛っ」
 これは良い事を聞いたとばかり、すかず俺は、満面の笑みを浮かべる。対照的に"焦りの極"めいた表情となった斗貴子さんが前言撤回してしまう前に、急いで宣誓した。
「不肖、武藤カズキ! 斗貴子さんに気持ち良くなって貰うため、全力で頑張りますっ!」
「頑張らなくていぃ〜〜っ!!
 組敷かれし美女の思わず上げた悲鳴は、普段の声より2オクターブは高かった♪

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