2、
兄貴が失踪してから、一年が過ぎようとしていた。
俺は月臣学園に進学し、平凡でこれといった長所も無い高校生をやっている。
そして、兄貴の帰りを待つまどかさんは、俺と二人で暮らしている……。
帰ってきたと思ったら、倒れ込むようにして眠りに就く。
睡眠不足と判りきってはいても、早朝に起床。
心ここに在らずといった態で食事をかっ込んで、出勤。
徹夜で仕事なんてこと、珍しくもなんともない。
トーシローで働いてもいない俺が言うのもなんだが、刑事ってのは、つくづく辛そうな仕事だ。
女の身で、しかもモデルみたいな外観の姉さんが、よくもっているものだと、俺は常々感心させられている。
たまの休日に、家で一日中「ぐて〜♪」としているのは、日頃の反動なのだろう。
如何に公僕ではあっても、苛酷な労働を果たした後、一時の休息を楽しむ権利ぐらいあるはずだ。
例えその姿が、“警視庁の敏腕刑事”からほど遠かったとしても……。
「姉さん、そんな格好で寝てたら、風邪ひくよ……」
「……zzz……zzz……」
念のため、俺は用心深く声をかける。
俺のせいじゃない……。
そういう気分になるように、姉さんが仕向けなかったら、俺は薬なんて……。
珍しく午後七時半に帰宅し、夕食・入浴等を済ませた姉さんは、居間のソファーで、ぐっすり眠り込んでいる。
ここ一ヶ月ほど、ろくに家へも帰れない日が続いていたから、姉さんが久しぶりに寛ぎたくなったのは理解できる。
「明日は、オ・ヤ・ス・ミ♪ はぁ〜、しあわせぇぇ♪」
鼻歌混じりに姉さんは、俺に、ワインボトルの封を切り、ツマミを用意するように命じたのだった。
今までにも、何度かこういう事はあった。
唯、今回問題だったのは、姉さんが、すぐに眠られる格好をしてから飲み始めたのではないという事だ……。
姉さんは、風呂を済ませると、居間に直行してきた。
纏っているのは、バスローブ一枚のみ……。
……まったく。何考えてるんだか……。
俺が指摘をすると、姉さんは、わざとらしく自分の肩を抱き、悪戯な表情で俺を睨んで見せた。
「あらあら、歩ったら怖いわぁ。そう言えば、“お年頃の歩くん”は、清隆さんがああ言って出かけてから、ときどきヤァラシイ目で私のこと見るのよねぇ。ダメよ♪ この躰に触っていいのは、清隆さんだけなんだから♪ サカっちゃってて女なら誰でもいい、見境の無い時期かもしれないけれど、落ち着きなさいね。早まった事すると、私があんたに手錠をかけなきゃいけなくなるからね。“オコチャマの歩くん”は、先ず彼女を見つけて、清い交際をしなさい♪」
子ども扱いするなよ……。
いや、そんな事より、「誰でもいい」ってなんだよ! 姉さん以外の女の人なんて、俺の眼中に無いのに!
「自意識過剰なんじゃねぇの……」
手の中で、ワイングラスが軋んだ。
待てと、自分に言い聞かせた。
“計画”を立てた事までは、俺一人の妄想でしかない。しかし、如何に小道具を揃え終わっているからと言って、実行してはいけないのだと……。
俺が葛藤に苦しんでいる事など想像もせず、姉さんはなおも、からかうように続けた。
「歩……あんたは、清隆さんじゃないんだから。その事を、きちんと自覚しなさいね♪」
「……………言われるまでもないよ……」
グラスは軋んだだけで、割れずに済んだ。
そんな事……とうの昔に……嫌になるくらい理解している。
「君は、あの鳴海清隆の弟か!」
今までの人生で、何度もそう言われてきた。そして、その台詞を吐いた連中は、後で決まってこう言ったんだ。
「お兄さんには及ばないね」
クッ! クハハハハハハッ!
当たり前だろう!
兄貴は百年、いや千年に一人、現れるかどうかの、全てにおいて完璧なる天才!
それに引き換え、俺は特筆すべき能など何も無い、唯の凡才。
俺は兄貴に憧れるだけの、愚物。
兄貴のようになれるはずが無い。兄貴のように出来るはずが無い。兄貴のように、欲しいものは何でも自分の力で手に入れるなんて事、こんな俺に出来るはずが無いんだよ!
まどか姉さん……。あなたは、俺なんて兄さんと比較も出来ないって、知り尽くしてるじゃないか。
何で言うんだよ……。
よりによって“今”、何で言うんだよ!!
TVのバラエティー番組を、興味なさそうに眺めている姉さん。その姿を目の端で捉えつつ、俺は“小道具”を取り出していた。
蓄積された疲労。極度の睡眠不足。
因みにツマミは、クラッカーにポテトサラダを乗せたもの。でんぷんの摂取は眠気を催しやすいから、俺は、わざとこれを用意した……。
更にアルコールの摂取。ワイン飲んだりしたら、すぐに眠くなるのは当たり前じゃないか。……たとえ俺の用意したワインに、睡眠薬なんて入ってなかったとしても……。
姉さんが寝入ってしまった事に、何も不審な点は無い……。
「姉さん、起きなよっ。風邪ひくよっ!」
TVを消し、テーブルの上を音立てて片付け、大き目の声で呼びかけてみても、まったく無反応。念のため、姉さんの肩を揺すってみた。
「……ぅん……」
目を覚ましもせず、ちょっと眉を寄せると、姉さんはふいに寝返りを打った。
俺の指が、バスローブ前の合わせ目に引っかかる。
「う………………姉さん……風邪……ひくから……」
今更と言われるかもしれないが、俺は怖いような気分になり、次は声をかけるだけにしていた。
再度の寝返り……。
さっき、指が引っかかったのは偶然だった。
偶然だったから……びっくりしたんだ……。
「一服もっといて、今更止める事はないよな……」
姉さんは、顔はやや左向き気味だが、ほぼ仰向けの状態で眠っている。
「姉さん……」
もう一度、やや小さめに声をかけてみた。それでも、無反応……。
ほんの少し開いた唇から、安らかに寝息を洩らすのみ。
こうして寝顔を覗き込んでみると、あどけない少女のようだ。
二度寝返りを打った割には、バスローブも乱れていない。先刻に比べ、ほんの少し、胸元が開いただけ……。
「目……覚まさないよな……」
睡眠薬は、想像以上に容易く手に入った。本当に便利な時代だ。そのつもりで然るべき場所へ行けば、もっとヤバイ薬だって手に入る。
それでも紛い物を掴まされた危険性があったから、知り合い――同じ高校の生徒――を使って、予め品質や用量等を確認しておいた。安易に睡眠薬を使って、そのまま御永眠……。洒落にもならない話を、結構聞くからな。
それはさておき、今から二時間ほど、姉さんが目を覚ます心配は無い。
断じて無いのだが、手の震えが止まりゃしないや……。
フリーズしそうな俺の脳裏を、あるフレーズが都合良く過ぎって行った。
“眠り姫は、接吻で目を覚ます”
別に俺は、王子様を気取る気は無い。姉さんの王子様は、清隆兄貴なのだから……。
「このままにしておいて風邪ひかせたら、後で何言われるか判らないから。起こす為なら……問題無いよなぁ」
矛盾した俺の行動……。手の震えを止める為、ここまでしながら怖気づいてしまった自分を動かす為、言い訳以外の何ものでもない。
「起こすためのキスなら……。洋画とか、よくあるよな……。額や頬に……」
家族としての、姉弟としてのキスなら大丈夫。
胸中で自分に言い聞かせた。
姉さんの寝顔がどんどん近づいてくる中、どこかで「やめろ!」と声がした。他ならぬ、この俺自身の良心の声……。
何だよっ! 五月蝿いなっ! こんな機会、もう二度と無いかもしれないじゃないか!!
「ぁ……いい匂い……」
少々こそばゆく、姉さんの吐息が右頬に当たる。
想像以上に爽やかでフルーティーな、日なたの匂い……。
「……姉さん……」
俺は今、憧れ焦れた人のほっぺにキスするんだ。
そう思うと、心臓が強すぎる鼓動を刻むたびに、視界がぶれた。
「んぅ…………」
唇に触れた、姉さんの右頬……。
その瑞々しい感触は、天にも昇るほど素晴らしくて……。
俺は、すぐに離れるのが惜しくなり、そのまま唇で姉さんの頬をなぞってしまう。ゆっくりと、横へ……。
桜色をした姉さんの唇に、俺は自分のそれを触れ合わせてみた……。
ごく薄い皮膚を通して、愛しい人の温もりが伝わってくる。しかし、それは俺が感じ取っているだけの、一方通行……。姉さんが、俺の思いを感じ取ることは無い。
当たり前だよな。眠っててもらわなきゃ、こんなこと出来ない……。
物足りなくなった俺は、唇から舌先での接触に切り替えた。
姉さんの上唇へも、下唇へも……。塗り忘れた部分なんて無いように……。唾をゆっくりと塗り込んでいく……。
俺は、舌先でじっくりと、姉さんの唇を穢す……。我ながら、どうしようもなく下卑た悦び……。
「ぅんん……」
不意に眉を寄せて、小さな声を洩らした姉さんが、顔を背ける。
俺はギクリとして、思わず舌を離していた。
「姉さん?」
幸い声をかけても、目を覚ます様子は無い。
……クスクス……♪
俺は、自分の口元が綻んでしまうのを、止められなかった。
大丈夫ダ。今ナラ、何ヲシテモ判ラナイ……。
白い柔肌を、指と唇で隅々まで撫でまわす。
こんなことする機会は、二度と無い。二度も作っちゃいけない。
だから、記憶にしっかり焼き付ける為に、俺は何度も愛撫を繰り返した。返事が無いのを百も承知で、何度も繰り返した…………。
「まどか姉さん……愛してる……」
居間のソファーでなんてあんまりだから、俺は姉さんを、自分の部屋に連れ込んでいた。
眠れる美女を大事にベッドに横たえ、俺は急いで服を脱ぎ捨てた。数回の深呼吸……。そして、震える指で帯を解き、バスローブの前を開け広げた。
「綺麗だ……本当に……とても……」
嗚呼! まどか姉さんの生まれたままの姿を見つめているのに、陳腐な台詞しか吐けない自分が恨めしかった。
大きく、張りがあって仰向けになっていても形良い乳房。細くくびれた腰と、豊かで柔らかなラインを描くヒップ。プロのモデルすら、裸足で逃げ出しそうなプロポーションだ。
それらは事実なのだけれど、それだけじゃないんだ!
まどかさんの躰は、内側から真珠のように輝いている!
……類稀な、生命力の発露……。
それこそが、俺を――そして兄貴を――遺伝子レベルで魅了しているはずだ。命について考えられる男なら、まどかさんに自分の子を生んで欲しいと、思わずにはいられないだろう。
兄貴よ……。まどかさんをほったらかしにして、何処で何をやってるんだ?
「……ん……もう大丈夫だよな?」
魅惑の泉。
数時間前まで絶対に見られないと思っていた、まどかさんの一番秘密のところ……。
薄い茂みに隠された、肉の秘貝と肉の宝珠。
生まれて始めて目の当たりにして、どうして時に「おいしそう」なんて表現するのかが判った気がする。食欲とは別次元の、生命の神秘に触れる事への畏敬が、そう言わしめるのだろう。
とりわけイヤラシイ音を立てて、まどかさんにむしゃぶりついていた俺は、舌先にぬめりを感じて、口を離した。
俺の唾液に濡れて光るク○トリスを指で軽く摘まむと、下腹部や尻が、微かに震えた。念のためにもう一度、秘唇へ舌を差し込むと、唾液とは明らかに異なる汁が、湧き出していた。
最初は石鹸の匂いが残っていた、まどかさんの秘苑。それが今では、別種の香りを漂わせ始めている。
「でも愛液って訳じゃないんだよな……」
判っていた。躰の震えなど、まどかさんの意思と無関係なものでしかない。芳しい蜜は、刺激に反応した躰が膣を傷付けない為に分泌した、保護液でしかない。
判っている。これで良いんだ。
まどかさんは、義理の弟に犯されて、感じるような女じゃないんだから。
みんな俺が悪い。
「まどかさん……ごめん……。俺は悪い奴だから、最後までするよ」
もう、我慢出来なかった。
上体を起こした俺は、愛しい人の股の間へ、一層いざり進んだ。
先刻から、はちきれんばかりになっている俺のペ○ス。その先端を、まどかさんの秘所にあてがった時、不意に俺は、兄貴の言葉を思い出した。
「歩……、まどかを頼む」
そんなことを言うなら、兄貴はどうして、まどかさんの傍から消えたんだよ。
恨むなら、失踪した自分自身を恨んでくれよな!
俺は、まどかさんの中へ、ゆっくりと入り込んでいった。
「まどかさんの中……すごく気持ちいいよ……」
耳元で囁いてみる。返事は無いが、構わない。言葉が不自然に途切れるのは、腰を動かしているから。
ピストン運動ってのが、想像以上に難しいことを、挿入直後に理解した。動かし方は、大きすぎても駄目。小さすぎても駄目。
俺はペ○スを、まどかさんの膣に根元まで差し込んだまま、腰で円を描くように動かしている。これなら途中で抜ける心配は無いし、何よりずっと深く、まどかさんと繋がっていられる。
「まどかさん判る? 俺達……繋がってるんだ……。グチュグチュ音がしているだろう? まどかさんの御汁……おいしいよ♪」
わざと、とびきり卑猥なことを口にする俺。反応の無いことは判っているのに、止められなかった。
全身麻酔とは訳が違うから、まどかさんの全身は、ほんのりとピンクに染まっている。合体を強制されているからだ。表情も、些か苦しそうに見える。
「くっ! オ○ンコが熱くて……絡み付いて……俺もう……」
一方通行の想い。許されず、叶う筈のない想い。
俺は、どんどん腰を加速させていく。
心が繋がれないなら、躰だけでも繋がりたい。
愛し合う幸福を得られないなら、せめて快楽だけでも味わいたい。
本当は……まどかさんに、「愛してる」と言われたい。でもそんな事、叶わないから……。叶わないならっ!
部屋の中に、卑猥な水音が響く。肉の、絡み合う音が響く。
「まどかさん……愛して……!」
突然、大量の血を抜かれたように、目の前が真っ暗になった。そして……、腰から脳天まで貫き走った射精感!
うめくと同時に、愛しい人の中へ、俺は欲望を迸らせていた。
クッ! クククククッ!
義理の姉を犯しておいて、“愛”か……。何勝手なこと言ってるんだか!
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…………」
すっかり息が上がってしまって、俺は犬になったみたいだな。
視力の戻ってきた目で見れば、まどかさんの呼吸も乱れていた。
あっと、いけない。うっかりしていたよ。「まどかさん」じゃなくて、「姉さん」と呼ばないとね!
……ハハハハッ……アハハハハハッ!
息が整ったところで、また俺は、薬で眠ったままの姉さんに囁いた。
「姉さん。俺は兄貴から、まどかを頼むって言われてるんだ。だから、あと二、三回はいいよね♪」
結局その後、俺は五回も、姉さんに穢れたザーメンを打ち込んだ。
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