シェリルの部屋。
 自室に戻ったシェリルは、VSM訓練を行うべきか否か迷っていた。今あの妖術を仕掛けられて、本当に自分は対応できるのだろうか。先ほどから再び身体の奥深くに何やら淫靡な感覚が芽生えはじめている。それも訓練への不安を高めている原因だった。
 (でも、いつまでもこんな感覚に悩まされ続けるわけにはいかない。早く訓練で対抗できる力を身につけないと)
 そう思い直しシェリルは、VSの実施を決心した。
 VSMの装置はリクライニングチェアー型で、隊員はそこに横たわり様々な機器を身に付ける。ヘッドギアを被り、機器に脳波を送ることによって過去の記憶から仮想世界を作り出す。ゴーグルを付け、実際の視覚を遮断し、脳の中で直接ヴァーチャル空間を知覚させる仕組みである。またVSMは脳波に働きかけることで、あらゆる擬似感覚を生じさせることができる。こうした仕組みで完全なヴァーチャル空間を作り出すのだった。
 シェリルは服を脱ぎ、下着姿になった。衣服はVSM機器に影響を与えるため、なるべく着けないことになっていた。
 (そうだ、博士にもらった薬を飲まないと)
 デスクの上に置いたカプセル型の薬を手にとり、シェリルはそれを水で呑み込んだ。併せて、ホルダーの中から例の玉を取り出す。玉が妖波の放射を始めた。
 (絶対……負けないわ…)
 シェリルは自分に言い聞かせながら、玉を左手に握りしめたままVSMに横たわり、チェアーベルトを腰に締めた。右のアームレストにある操作スイッチをオンにするとVSMが稼働を始め、自動的にヘッドギアとゴーグルがセットされる。
 やがてシェリルの目の前にヴァーチャル空間が広がっていった。

 「シャドウ様、シェリルがVSMを稼働させました」
 ビショップはモニターをのぞき込んでいる。そこにはVSMに身を横たえたシェリルの姿が映っていた。白いブラジャーに包まれた豊かな胸が、呼吸とともに上下している。
 「よし、淫玉の放射を最大限に高めよ。そしてVSMにわしの念を送り込め」
 「はっ」
 ビショップが機器を操作し、VSMを淫虐の装置へと変えていった。

 シェリルは電車内にいた。
 罠と覚悟しつつ乗り込んだ車内。シャドウの動きはわかっている。今度は対応できるはず。そう考えながら、乗客が痴漢と化して襲いかかってくるのに身構えるシェリルだったが、なぜか車内では何も起こらない。
 (VSMがうまく機能していないのかしら)
 それになぜか妙に体が熱い。思考力も低下している感じだ。実は、博士に渡された薬は強力なネミスの媚薬で、それが次第に身体の中で効力を発揮しはじめていた。
 普通なら半ば覚醒している意識を呼び覚ましVSを中断するところだが、シェリルは仮想空間にとどまったまま、ぼんやりと車内の乗客たちを観察している。
 (この人たちがあのとき淫らなことを……)
 そう思うと、淫らな光景が脳裏に浮かんでくる。もやもやとしたものが下半身に生じて、シェリルは無意識にスカートの中で腿をこすり合わせた。
 (このままじゃシミュレーションにならないわ……早く……)
 淫らな毒が急速に全身を巡る。
 (早くあのときのように!)
 心の中でそう叫んだ瞬間、周囲の乗客が一斉にシェリルに手を伸ばした。無数の手がシェリルの身体に淫らな愛撫を注いでいく。
 「いやあっ」
 シェリルは逃れようとして身をくねらせながら、何とかシャドウのことを考えようとした。しかし身体に湧き起こる、信じがたいような快感がそれを妨げる。痴漢の手がスカートの上から、ヒップに、秘部に、触れただけで、官能の小爆発が起こる。
 (何っ……どうしてっ…あっ、あっ…)
 そこからは痴漢たちの為すがままだった。痴漢行為は記憶と同じように進行していくのに、何もできない。いつの間にかシャドウの乗り移った男がシェリルの前にいる。
 「また気持ちよくしてほしくて、ここに来たんだろ」
 「ち…違います……」
 口では否定するが、身体は明らかに快楽を求めている。
 「正直にこんなふうに言ったら、またご褒美をやるぞ」
 「ご褒美」という言葉がシェリルを捉えた。
 (そうよ…相手を油断させて…あのときと同じようにして……)
 混乱した思考で、そう考える。
 そして男が教えたせりふ以上に、シェリルは屈服の言葉を次々と口にした。
 「また、気持ちよくなりたくて……S.T.Sには内緒で…ひとりで、ここへ戻って来たんです。早くっ…早く淫らなことをして……もうっ、我慢できません。たくさんイかせてくださいっ」
 「へへっ、そうか。じゃあご褒美をやろう」
 男が近づいてくる。反射的に頭脳が回転して、敵への対処を思い出す。
 (こ…ここだわ。後ろに気をつけて……)
 ここでシャドウに攻撃すれば……と考える、……が、全く身体が動かない。逆に、あってはならない期待が、女の中心部に渦を巻く。
 (もうすぐ、あの……あの感覚が……)
 思考が錯綜する。
 背後にテレポートしたシャドウがシェリルのパンティに淫玉を滑り込ませる。
 「それ、ご褒美だ。思い切りイってみろ」
 その瞬間、一際大きな快楽のうねりがシェリルを包み込んだ。



 (ううっ…また、あのときと同じ……ああっ……いけないっ…)
 クリトリスの上で回転する淫玉の感触を感受しながら、ビクビクと身体を痙攣させる。しかし、飛んでしまいそうになる意識を辛うじてとどめ、どこかに消え失せてしまいそうな現実の身体感覚をたぐり寄せ、シェリルは右の手に力をこめて、何とかVSMのスイッチを切った。
 
 「ハアハアハア」
 現実世界に回帰したシェリルは、肩で息をつきながら、ゴーグルを外して周囲を見渡す。
 (どうして……わたし……)
 何故こんな結果になってしまったのか考えようとするが、うまく思考が働かない。しかも現実に戻っても、身体を支配する淫らな劣情は抑えがたい程に高まっている。
 そのとき、左手に握った淫玉が妖しくピンクの光彩を放った。その途端、脳髄が犯されるような感覚と共に、シェリルは耐え難い衝動に囚われて、淫玉を下半身に近づけた。はしたなくもパンティの底は、ねっとり溢れた女蜜液でヌルヌルになっている。
 (ああっ…どうしよう……)
 シェリルはそのまま操られるように玉を秘部に押しつけていった。ピンクに光る表面でシルク地のパンティ越しにしこった肉芽をなぞると、禁断の快楽が湧き起こってビリビリと子宮を震わせる。
 (あっ……だめよっ……何をしているの、私……)
 官能と背徳感の板挟みの中で苦しみながら、シェリルは凄まじい悦楽の波から逃れようと、反射的にVSMのスイッチを入れた。
 再び悪魔の装置がシェリルを淫靡な仮想空間に引きずり込んでいった。

 〈第3章 了〉