特殊部隊S.T.S. 美人超能力隊員シェリル
第3章 ヴァーチャルシミュレーション1

テキスト&挿絵 by 影法師


 デルタシティー郊外にあるS.T.S本部基地。シェリルをはじめとする超能力隊員を統括し、その活動を指揮する総司令部がここである。基地内には最先端の科学施設が備わり、そこではネミスの妖術に対抗するため、常駐する科学者たちが日夜研究に当たっていた。また隊員の鋭気を養うための様々な施設も完備され、特に有能な超能力隊員にはそれぞれに個室も与えられている。それ故、自宅を持ちながらも、シェリルたちは生活の半ばをこの本部基地で営んでいた。
 戦いに疲れたシェリルは本部基地に帰還していた。シェリルの連絡で、ビルに連れ込まれた男たちは他の隊員によって救出され、おのおの自らの住居へと帰っていった。もはや夜も更けていた。
 シェリルは基地に戻るとまず、その日のネミスとの戦闘について上層部に報告した。デルタ学園の子供達の救出、そしてネミスの施設での戦い……
 しかしその間に受けた淫らな仕打ちについては、もちろん報告できるはずもなかった。そして例の淫玉についても、報告はせず、ひそかに研究部に持ち込み、妖力研究の権威Dr.ビショップに分析を依頼していた。
 (とにかく、体に染みついた淫らなものを洗い流さないと…)
 シェリルは自室に戻ると、汚れたスーツを脱ぎ捨てて全裸になり、備え付けの全身浄化カプセルに入った。戦いを終えて基地にたどり着くまでの間も、絶えず切ない疼きに悩まされ続けていた。何か淫らなものを身体全体にすり込まれたような感覚がある。いまはとにかく、一刻も早くその状態から抜け出したかった。
 カプセルに入りロックすると、自動的に霧状の浄化シャワーが噴出し、全身を隈無く清めはじめた。ややひんやりとした感触とともに、身体の火照りが次第にひいていくのがわかる。通常10分で充分のところを、シェリルはおよそ30分間浄化シャワーを浴び続け、漸くリフレッシュした気分でカプセルを出た。
 (ふう、何とか落ち着いてきたわ)
 服を着ながら、シェリルはようやく緊張から解き放たれた気分になった。しかし新しい下着を身につける瞬間、ほんの少しだが払拭しきれないもやもやとした感覚が下腹部に残っているのを知覚した。だが、シェリルは努めてそれを意識しないようにした。潔癖な理性を持つ彼女にとって、そのような劣情は断じて受け入れがたかったのである。
 服を着終えたシェリルがデスクにつき、S.T.Sに入ってくるリアルタイムの犯罪情報をコンピューターで確認していると、部屋の通信機が鳴った。Dr.ビショップからの呼び出しである。
 「シェリル、すぐに第17研究室に来てくれ。さっきの球状物質の分析結果が出た」
 「ありがとうございます博士、すぐに行きます」
 シェリルは自室を出て、隣接する建物にある研究実験施設へと向かった。第17研究室はその建物の地下2階にある。
 既に時間は夜の11時。研究プラントに働く研究員の数も少なくなっている。第17研究室のある地下2階にもほとんど人はいなかった。
 「おお、来たか」
 第17研究室に入ると、妖力分析装置の前でDr.ビショップが立っていた。少し太めの体躯を白衣に包んでいる。年齢は50代後半、研究所に入ってまだ1年余りだが、研究能力の高さから特に妖力分析研究においては指導的地位についていた。
 「どうですか。博士」
 「うむ、まあこれを見てくれ」
 ビショップは分析装置についているモニターの前にシェリルを導いた。
 「この波形にあらわれているように、この物質からは極めて強力なε波が放射されておる。この放射によってネミスの妖力が物質のまわりに伝えられるのだ」
 「イプシロン波?聞き慣れないものですね」
 「ああ、わたしもこのような放射線を検出するのははじめてだ。通常、ネミスはδ(デルタ)系の波形を妖術に利用している。だからそれに対抗して、これまでδ波に対抗するスーツを開発してきた。しかし敵が新たな方法を用いてきたとなると……」
 「どうすれば?」
 シェリルは不安げに尋ねた。
 「少しやっかいなことになる。こちらも新たな技術を開発せねばならぬが、それには少し時間がかかる」
 困惑した表情を浮かべ、ビショップは腕組みしている。
 「そんな……ではまたもし同じような攻撃を受けたら……」
 シェリルはそう言いながら、微かに頬を赤く染めた。電車での感覚が頭によぎったのだ。
 「開発が進むまでは完全に妖術から逃れることはできぬかもしれぬ……が、手はないわけではない。」
 「教えてくださいっ、博士」
 「……しかし…この方法は身体に過度の負担がかかるぞ」
 「かまいません。ネミスに勝てるなら」
 「……そうだな、君の超能力を以てすれば、できぬことはないだろう。ヴァーチャルシミュレーションマシンを使うのだ」
 ヴァーチャルシミュレーションマシン(VSM)とは、隊員一人一人の個室に備え付けられている機器で、仮想現実世界で敵との戦闘をシミュレーションするためのものだった。
 「VSMを……」
 「そうだ。ただし、単に敵との戦闘を仮想訓練するなら、普段の訓練と変わりがない。そうではなく、この玉を使って本物の妖術波を体に受けながら、訓練をするのだ。しかしまともに妖術波を浴びれば、体が持たぬ。そこでこの玉が放つε波を微弱なものに変換し、その放射を浴びながら、仮想世界で敵に対処する。君には戦闘経験を詳細にリマインドする能力があるから、それを使って、今回の戦闘を再現し、ヴァーチャルな戦闘の中でε波への対応能力を高める。言わば免疫力を高める訓練だ。君の体にある抗妖力波エナジーを以てすれば、十分対処は可能だろう。」
 「そんな……VSMの中でシャドウの妖術を追体験しろと……」
 シェリルは戸惑った。あの淫猥な体験を再現するなどということは考えられない。
 「うむ、それしかあるまい。妖力波を弱めれば、それほど問題はないはず。先の戦闘では一瞬術に嵌って金縛り状態となったかもしれぬが、VSMの中では容易にクリアできるだろう。」
 玉の分析を依頼したとき、シェリルは博士に、妖力によって金縛りにあったとだけ伝えていた。
 「え……ええ」
 仕方なく話を合わせ、自信がなさそうに答えるシェリル。
 「しかししばらく体を休めてからの方がいいのでは?」
 「いや、記憶が確かな内に行った方が効果が上がる。この訓練は今すぐがよいぞ。これから部屋に戻り、睡眠をとる前にVSM訓練を行えば、大きな効果が期待できる。今すぐあの球状物質を、妖波を微弱にして渡すので、持っていくがいい。それと、抗妖力エナジーを高める薬も処方しよう。VSM訓練に入る前に飲むのだ。よいな」
 「…………はい」

 シェリルは淫玉と薬のカプセルを受け取り研究室を跡にした。
シェリルが去りしばらくすると、ビショップはS.T.Sでは使用しない小型通信機を内ポケットから取り出して、先ほどとはうって変わった口調で話しはじめた。
 「シャドウ様、計画通りに進んでおります」
 「ビショップ、よくやった。VSMの改造も完了しておろうな」
 「はい、お言いつけ通りに。シミュレーション中にこちらで仮想世界に介入し、すべてをコントロールすることができます」
 「よし、シェリルがVSMの空間に入ればこちらのもの。ヴァーチャル世界でシェリルの身体に淫楽の記憶を刻み込んでくれるわ。ネミスの淫玉は渡したか」
 「はい、気づかぬように波動を変えて、効力を数倍に高めております」
 「それでよい、ではシェリルがVSM訓練に入ったら連絡しろ。S.T.S基地への潜入は無理でも、ここから仮想空間に思念を送って思う存分シェリルを嬲ってやる」
 「はっ」