しかし、その時。
 通信装置の付いたイヤリングに信号波が入り、その刺激によって脳裏に映る透視映像が途切れ、思わずシェリルは目を開いた。一定時間連絡のない隊員へ送られるS.T.Sからのシグナルだった
 ほんの一瞬、この場の状況が理解できなかったシェリルだったが、次の瞬間、自分が何をしようとしていたのか気づいて、シェリルは慌てて淫玉をホルダーに戻した。すっかり美貌が上気して、目もとが悩ましく朱に染まっている。
 (どうしたって言うの、わたし……覗きながらなんてことを……)
 我に返るとシェリルは恥ずかしくてならなかった。乱れたスカートを直し、ハアハアと息をつく。スカートの奥で下着の底がひどく濡れている感触がある。そしてその中では、女肉にとろけるような感覚が残っていた。パンティの中に淫玉を入れたくなる衝動が沸いてくるのを必死で抑えた。
 (早くここを出ないと……)
 このままここにいては、自分を見失ってしまうかもしれないとシェリルは思った。両手で頬を押さえるような仕草をして自分を落ち着かせ、もたれかかった扉から身を起こした。
 扉を離れると、軽い目眩でよろけそうになる身体を何とか支え、階段の方へと向かった。歩き出すと、内腿の合わせ目にまで、いやらしいぬらつきのあるのがわかる。シェリルは羞恥を覚えながら、ともかく敵に見つからずに建物を出なければと、足音をたてないように歩いた。
 ほんの10メートル程度の距離を永遠に続く道のりのように感じながら階段のところまで来たとき、しかし突然背後で物音がし、鉄の扉が大きく開いた。同時に女の声が通路に響きわたる。
 「お待ちなさいっ」
 ふり返ると、そこには偽のシェリルが下着姿で立っていた。
 「もう帰るの?
お楽しみはこれからよ。さあ、わたしたちと一緒にいいことをしましょう」
 シェリルは内心の動揺を悟られぬように、厳しい表情で相手を睨み返した。
 「あなた、ネミスの妖術使いね。わたしになりすまして一体どうする気」
 「フフフ、本当のお前の姿。淫らな本性をみんなに見せてあげるのよ」
 偽シェリルは自らの乳房を揉みながら言う。



 「ふざけないでっ」
 シェリルは激しい憤りを覚え、戦う体勢を整えた。今の状態で戦闘に入るのは危険だが、こうなれば仕方がない。
 (しかし、何とか一撃で倒さなければ……)
 もはや長時間の戦闘に絶える体力も、サイコパワーも残っていない。ここは一回の攻撃にパワーを集中するしかなかった。
 「ばかな女、わたしと戦おうと言うのかい」
 偽シェリルの肢体がみるみるうちに変化し、黒い肌に覆われたネミスの女幹部ギレーヌ本来の姿に戻っていった。
 「シェリル、お前をここで葬ってやる」
 ギレーヌは長くのびる鞭を取り出し、シェリルの方に向かって通路の床にピシャピシャと打ち付けた。
 それをシェリルは何とかかわしつつ相手の動きを計算していく。戦っている間にも敵の動作を分析し次の自分の動きに備える。それがスーパーコンビューター並の頭脳を持つシェリルの、人並みはずれた戦闘能力の一因であった。
 ギレーヌは巧みに鞭を操り、シェリルを壁際に追いつめてゆく。
 (もっと敵を引き付けて……)
 パワーを集中して衝撃波を浴びせれば十分に倒せる相手だとシェリルは判断し、目立った攻撃はせず、相手の近づくのを待った。
 「どうした、もう戦う力もないのかい。ならとどめを刺してやる」
 そう言うと、ギレーヌは再び鞭をシェリルの方に打ち下ろした。
 咄嗟にシェリルは身をかわす。
 しかしその時、鞭がまるで自らの意志を持った蛇のような動きで、シェリルの身体に巻き付いていった。足首からするするとはい上がり、縛り縄のように体を絡め取る。
 (しまった!)
 手の動きを完全に封じ込められてはパワーが使えなくなる。
 鞭が巻き付く瞬間、シェリルは間一髪のタイミングで右手だけを抜き取り、自由に動かせるようにして身体のうしろへ隠した。
 「どうだい。動けないだろう」
 近づいてくるギレーヌをもがきながら見つめるシェリル。内心では攻撃のタイミングを冷静にはかっている。
 「殺すには惜しい美しい身体。しかし仲間の恨みを晴らさせてもらう。どうやって殺してほしい?まずはその首を締めてやろうか」
 ギレーヌが歩み寄り、シェリルの方へ手をのばした。
 (今だ!)
 シェリルは隠していた右手で近づいてきた手を掴み、瞬間的に強力な念動波を敵に送った。
 「何を……うっ、アッアアー」
 まるで感電するかのようにギレーヌは数秒間痙攣し、大きな呻き声とともにそのまま床へと倒れる。シェリルの身体を拘束していた鞭も、同時に裂けて辺りに飛び散った。
 (やったわ)
 相手が倒れるのを見て、シェリルはサイコパワーを停止した。
 しかし次の瞬間、シェリルの身体にまたしても淫靡な感覚が走った。今の強力な攻撃によって淫導波が作用し、性ホルモンを誘発したのである。
 (何か……身体が変だわ……とにかく、このビルを早く出ないと……)
 シェリルはスカートの中にくすぶる妖しい疼きを抑えつつ、地上への階段を上り始めた。
 
 そんな一部始終をシャドウは姿を現さぬまま窺っていた。
 (ギレーヌめ、放っておけばよいものを……しかし良いわ、シェリルの女体は確実に淫らな快楽に目覚めつつあるはず。次の手はもう打ってある)
 ビルを出て基地に連絡をとるシェリルの様子を確認して、シャドウは闇の中に消えていった。
 
 〈第2章 了〉