女宇宙刑事アニー・廃倉庫の支配者
作:美鉢 創/桃月堂 イラスト:NOLIA
煤けた灰色の倉庫が立ち並ぶ港町。
そこに、目も覚めるような鮮やかな黄色のRX−7が滑り込んできた。
だがそのRX−7は自慢のエンジン音を轟かせることもなく
周囲を警戒するように静かに倉庫の間を縫っていく。
ひときわ古びた倉庫の手前でアニーはさらに車のスピードを落とす。
ダッシュボードには生体センサーと連動したモニターが装備されていた。
モニターに映るその倉庫にはグリーンの輝点がべったりとはりついている。
アニーは倉庫の窓にフーマの視線がないことを確認すると車を降りた。
物陰を利用しながら朽ちた建物にすばやく近づいていく。
彼女は手前の廃ビルの陰から問題の倉庫を見上げる。
まだあどけなさの残る大きな瞳にはかすかに緊張の色が表れていた。
白く柔らかい肌がうっすらと上気し、大きく揺れる胸が高鳴っているのは
敵からの発見を避けてダッシュを繰り返したせいだけではなさそうだ。
訓練によって身につけた一連の行動の中に潜むその小さな不安は
おそらく彼女自身も意識していないものなのだろう。
銀河系の文明を忌まわしい信仰の下に次々と滅ぼしてきた不思議界フーマの
活動を事前に察知するため、銀河連邦警察の訓練を終えたばかりのアニーが
地球に派遣されたのだった。
しかしフーマの侵攻は予想以上に進んでいたらしい。軌道上からスキャンした
結果よりもはるかに強いフーマの生命反応がこの倉庫から放射されている。
少なくとも数名のフーマ兵がここに身を隠しているに違いない。
フーマの神官が部下を従えて潜んでいる可能性もあった。
その場合、敵が少数でも危険な任務になるだろう。
神官たちは銀河連邦警察の殲滅に異常なほどの執念を燃やしているのだ。
彼女は周囲に気を配りながら倉庫に駆けより、
まだ少女の匂いの残るその肉体をぴったりと壁によせた。
その磨きぬかれた動きには一部の隙もない。
だが彼女の身のこなしには、どこか蕾のような固さが漂っている。
搬入口のシャッターには鍵がかかっていた。
フーマたちは地球人を装い、合鍵を使ってこの倉庫に出入りしているのだろうか?
シャッターと地面の隙間には、トラックから漏れた油と泥が混じったものらしい
ゼリー状の物質が流れた跡がある。
アニーは手にしたレーザー銃のセンサーでシャッターの裏に敵がいないことを確かめ、
レーザーの出力を最小に絞ってシャッターの鍵を焼き切った。
そっとシャッターを上げて中に入る。
寂れた倉庫街には港湾地区らしい騒音もなく、レーザー銃の
エネルギーチャージャーが立てるキュイイインという小さな音さえ
敵の耳に届いてしまうのではないかと思えるほどだ。
足音を殺して奥へ進む。
アニーは搬入口の端のドアにたどり着いた。
銃のセンサーパネルには緑色の光が踊っている。
間違いない。この奥にフーマがいるのだ。
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