天火明命のひみつ
January.15.2010
みを
天火明命(アメノホアカリ)、またの名はニギハヤヒ。
ニギハヤヒは、神武東征前に近畿に降臨してヤマトの王だった人。
にい
「ニギハヤヒのひみつ」でのお話だと、
神武天皇が橿原で即位した後も、ニギハヤヒは、
ヤマトの東側を支配してたかも知れないんだよね?
みを
ニギハヤヒは王として、どんなマツリゴトをしてたんだろうね?
「マツリゴト」というように、昔の日本は、政治と祭祀は、同じ意味だったみたい。
神様をお祀りすることが、国家を運営することでもあったの。
だから、ニギハヤヒも、大切な神様を祭ってたはずよね?
にい
ニギハヤヒのマツリゴト?
祀ってた神様?
う〜ん、わかんない。
みを
もう一度、系図をよくみてね。
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にい
あれ? ちょっとまって?
天火明命と、ニギハヤヒって、同一人物なのかな?
天火明命がニニギのお兄さんなら、神武天皇とは、時代が違うような?
みを
そうね。
同一とも言われてるけど、系図を見ると、天火明命のほうが、ニギハヤヒより昔の人みたい。
天火明命の子には、高倉下って人がいて、この子孫が尾張氏と海部氏になったの。
一方、ニギハヤヒの子孫は物部氏。 微妙に系譜が違うのよね。
にい
ニギハヤヒは、天火明命の何代目かの子孫だったのかも?
みを
たぶん、そうね。 近い血縁だったと思うわ。
残念ながら、はっきりしたことは言えないけれど。
にい
で、ニギハヤヒのマツリゴトって何なの?
みを
ニギハヤヒから見た、ご先祖様の偉い神様って誰かしら?
にい
ええと……アマテラス?!
みを
そうね、天津神のアマテラスは、天皇家の祖神とされてるけど、
ニギハヤヒと天皇家は親戚とされてるから、同じアマテラスを祀ってたかもしれないわね。
ほかにはいない?
国津神とか?
にい
国津神?
みを
ニギハヤヒが天火明命の子だったら、母方の神。
ニギハヤヒが天火明命と同一なら、奥さんの親神。
天火明命の奥さんは、籠神社に伝わる、海部氏系図によると天道日女。
天道日女の親神は?
にい
天道日女の親神は……、
大国主だ!
みを
そう。 播磨風土記でも、天火明命は、オオナムチ(大国主)の子と書いてあるわ。
これは、オオナムチの娘の天道日女と天火明命が婚姻したことで、親子関係にされたと思うの。
にい
わかった!
アマテラスと、大国主を、
ニギハヤヒは祀ってたのね!
みを
もう、一柱、タカミムスビがいるわ。
アマテラスと、タカミムスビと、大国主は、
今でも、大事にお祀りされてる神様ね。
にい
なあんだ、じゃあ、ニギハヤヒの祀ってた神様は、今と同じだったってことじゃん。
アマテラスと、タカミムスビと、大国主、
この3柱の神が婚姻関係を重ね、結ばれている。
天皇の祖神として、守護している。
- アマテラス
神武天皇と、天火明命の共通の祖神。
- タカミムスビ
神武天皇と、天火明命の共通の祖神。
- 大国主(オオナムチ)
籠神社の海部氏系図によると、
天火明命は、オオナムチの娘の天道日女と婚姻している。
神武天皇が、ヤマトで娶った后の親は、
日本書紀では事代主の娘、古事記では大物主の娘となっている。
事代主と大物主は、どちらも大国主の子とされている。
現在、天皇家の皇祖神は、アマテラスとされている。
天皇を守護する御巫八神の神は、
高御産霊神・魂積産霊神・神御産霊神・生産霊神・足産霊神・事代主神・大宮売神・御食津神。
タカミムスビと、事代主神の名前が見える。
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にい
あまり、ひみつは無さそうだけど……。
みを
思い出してみて。 神武が東征してくる前から、ヤマトではニギハヤヒがマツリゴトをしてたのよね?
にい
うん、ということはぁ、神武東征より前から、ニギハヤヒが、
アマテラスと、タカミムスビと、大国主の祀りをしてたってことよね?
みを
そこなのよね!
実は、ニギハヤヒや、天火明命には、もっと長い名前があって……。
ニギハヤヒ・天火明命の別名は、
天照國照彦天火明櫛玉饒速日尊
(アマテルクニテルヒコアメノホアカリクシタマニギハヤヒノミコト)
にい
うわっ! ながっ!
みを
はじめの文字に注目してみて!
天照國照彦天火明櫛玉饒速日尊
(アマテルクニテルヒコアメノホアカリクシタマニギハヤヒノミコト)
にい
天照(アマテル)って、天照大神(アマテラスオオカミ)と同じ名前だね?
みを
そうよ! 神様はいっぱいいるけど、「天照」を冠して呼ばれてる神は、
天照大神と、天照國照彦天火明櫛玉饒速日尊、つまりニギハヤヒと天火明命だけなの!
ニギハヤヒは、天照大神と同じ、「天照」の称号を冠している。
天照を冠して呼ばれている神は、
天照大神と、天照國照彦天火明櫛玉饒速日尊(天火明命/ニギハヤヒ)しか知られていない。
鏡作坐天照御魂神社(奈良県磯城郡田原本町八尾)の祭神は、
天照國照彦天火明命/石凝姥命/天児屋根命。
「天照御魂」とは、天火明命のこと。
むしろ、天照大神とは、天火明命を意味していたのではないか?
にい
えっと……? それって、どういうこと?
みを
もしも、天照大神が、天火明命と同一だった……としたら?
ニギハヤヒこそが、アマテラスを祖神として、ヤマトで古くから祭っていた一族だったことになるわ。
神武は、天火明命とは系譜が違うから、天照大神は祖神じゃなかったことになるよね?
その証拠に、神武東征神話では、神武はタカミムスビを祀ってるの。
神武は、タカミムスビを祀っている。
神武が天皇に即位した後の4年、
皇祖神を称えるために、榛原に祀りの場を設けた。
榛原の墨坂神社には、天御中主神、高皇産霊神、神皇産霊神、伊邪那岐神、伊邪那美神、大物主神が祀られている。
この中には、天照大神の名は見えない。
そして、神武天皇はヤマトの国を称えるが、
昔、神がヤマトを称えた言葉が引用されている。
イザナギ、オオナムチ、ニギハヤヒの名前は見えるが、
この中には、天照大神の名は見えない。
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にい
ニギハヤヒが天照大神を祖神としてて、
神武は、タカミムスビを祖神としてて、アマテラスを祖神にしていなかった、ということになるの……?
だったら、ニギハヤヒと神武は、本当は、親戚じゃなかったってこと?
みを
考えてみて!
天孫降臨神話以前の系譜を信じれば。神武とニギハヤヒは同じ天照大神の子孫だけれど、
神武とニギハヤヒが、本当に親戚だったかはわからないことよね?
もしも、神武とニギハヤヒが、全然関係ない系譜で、後から、同じ神を祖神として祭るようになったとしたら?
天孫降臨神話の系譜を信じて、神武とニギハヤヒが、本当に親族だとすれば問題ないが、
もしも、神武とニギハヤヒが、全く別の系譜だった場合、
両者をつないでいる系譜が、作為されたものということになる。
ニニギと天火明との間で、別々の系譜が混ぜられたものなら、
アマテラスを祭っていたのは、ニギハヤヒの方であり、
神武の祖神はアマテラスではないことになる。
実際、日本書紀を読めば、神武は、アマテラスではなく、タカミムスビを祀っている。
神武天皇→タカミムスビを祀っている。
ニギハヤヒ→「天照」の称号を持つ。
神武がアマテラスの系譜を持ち、
ニギハヤヒがアマテラスの系譜で無い場合、
神武に敗れた側のニギハヤヒが、
「天照」を冠する名前を与えられるのはおかしい。
ニギハヤヒを国津神扱いして、国譲りさせても、何の問題も無いはず。
それなのに、わざわざニギハヤヒを神武と同じく天津神の子孫とした理由は、
天火明〜ニギハヤヒが、実際にアマテラスを祭っていた王だったからではないか?
神武の祖神は、アマテラスでは無かったのだ。
にい
ええ〜〜?
つまり、神武は、ヤマトに来るまでアマテラス=太陽神とは、無関係だったってこと?
みを
アマテラスの別名として、「オオヒルメムチ」という名前もあるわ。
太陽神の名前は、昔は、いろんなところで、いろんな名前で呼ばれてた思うの。
神武は、オオヒルメムチという太陽神は知ってたとしても、アマテラスとは関係無く、
タカミムスビを格上の神としていたかも知れないわ。
にい
太陽神のことを、ニギハヤヒは、「アマテラス」と呼び、
神武は、「オオヒルメムチ」と呼んでたということ?
みを
あるいは、
オオヒルメムチが、古代日本の全国共通のの太陽神の名前で、
天火明命が、「アマテル」を名乗ったのかもしれないわね。
日本には、八百万の神々がいる。
そのうち、どの神を最高神と考えていたかは、場所や時代によって違っていた。
↓
神武は、オオヒルメムチという太陽神に畏敬の念を持ちつつ、
タカミムスビを祖神としていてもおかしくない。
↓
ヤマトに東征したとき、ニギハヤヒが太陽神アマテラスを祀っていたと知り、
ニギハヤヒを帰順させたときに、アマテラスをタカミムスビより格下にした。
↓
日本神話では、タカミムスビが、アマテラスよりも上位の神となっている。
みを
実際に、天皇家の祖神は、アマテラスじゃなくて、タカミムスビの方だという研究もされてるのよ。
([王権神話の二元構造]溝口 睦子著 吉川弘文館)
神武東征神話を読むと、神武はタカミムスビを祀っており、アマテラスは祀っていない。
神武を手助けした高倉下の夢にアマテラスが出てくるが、高倉下は、天火明命の子だ。
そもそもタカミムスビは、アマテラスより先に高天原に現れた神であり、
大国主に、地上の国譲りを迫ったのもタカミムスビ。
タカミムスビのほうが、初めて日本を統治した大王の祖神としてふさわしい。
古語拾遺では、
高皇産霊神−皇親神留伎命(すめむつかむろき)
神産霊神−皇親神留弥命(すめむつかむろみ)
と、記載されている。
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弥生時代後期、九州で鏡が分布していたのは、北部のみであり、
日向には、鏡はほとんど流入していない。
神武東征神話でも、神武が鏡を携帯していた描写は無い。
神武は、鏡=太陽信仰とは無縁だった。
にい
タカミムスビの神をヤマトで祀ったのが神武なら、
ニギハヤヒは、タカミムスビを祀っていなかったってことだよね?
祀っていたのは、アマテラスで、それと、大国主もかな?
みを
タカミムスビというカミのことは、知ってたかもね。
タカミムスビは、大国主に国譲りをさせたときに、タカミムスビの娘の三穂津姫を大物主に娶らせてるの。
それに、タカミムスビの子のスクナヒコナが、大国主と国作りをしているわ。
にい
神武東征の前から、ヤマトでもタカミムスビのカミは祀られていたのかな?
みを
タカミムスビは、別名、「高木神」と言うの。
神様を「柱」と数えることから、タカミムスビは、
日本の中でも古くから祀られていた神様だったんじゃないかな?
にい
神武が最初、タカミムスビを祀ってたのなら、
じゃあ、どうして、今は、アマテラスを祀ってるの?
みを
十代・崇神天皇の頃に、宗教観が変わったみたいなの。
”神武天皇は、タカミムスビを祭っていた”
神武東征以前、アマテラスを祀っていたのはニギハヤヒだった。
後の十代・崇神天皇になると、
天照大神・大物主・倭大国魂を祀ったという記事が登場する。
タカミムスビは祭られなくなった?
”アマテラスを祀り始めたのは、崇神天皇から。”
神武から崇神になったとき、宗教観が変わったように見える?
しかし、崇神天皇は、天照大神を宮中から遠ざけ、その後、天照大神は、伊勢で祀られることになる。
にい
崇神天皇は、天照大神を宮中から追い出したの?
みを
日本書紀には、宮中で祀るには、恐れ多すぎるから……となってるけど、
このあたりも、ひみつがありそう。
アマテラスが祖神なら、
崇神天皇は、どうしていまさら恐れ多いという感想を持ったのかしら?
やっぱり、最初の天皇たちは、アマテラスを祀り慣れてなかったんじゃないかな?
にい
神武天皇から、崇神天皇まで、アマテラスは誰にも祀られてなかったってこと?
みを
アマテラスを祀っていたのは、ニギハヤヒの末裔じゃなかったかしら?
”神武以後〜崇神まで、アマテラスの祀りをしていたのは、ニギハヤヒの末裔だった。”
崇神以前は、アマテラスはニギハヤヒの末裔が祀っていた?
↓
崇神天皇がアマテラスの祀りを引き継ぎ、実質的な大王となった?
↓
しかし、崇神天皇はアマテラスを祀り慣れておらず、宮中の外に出した?
”崇神天皇が、ニギハヤヒの末裔からアマテラスの祀りを引き継いだ。”
……ということが事実なら?
その時、何が起こったのか?
崇神天皇のときに、箸墓古墳が作られ、弥生時代から古墳時代になる。
大和王権は、このときから始まった。
にい
なにか、ひみつがありそ〜〜!
みを
太陽神の象徴とされた「鏡」が伝来したことと、関係がありそうかもよ?
こんな風に考えたらどうかしら?
神武の頃は、タカミムスビを最高神とし、太陽神を格下にしていた。
↓
その後、鏡が伝わり、太陽神の権威が高まる。
↓
人々が鏡を崇拝するのを見て、太陽神を利用してマツリゴトをしようとした。
↓
太陽神アマテラスをマツリゴトに取り入れた。
”崇神天皇が、ニギハヤヒの末裔からアマテラスの祀りを引き継いだのは、
鏡が威信財となり、太陽神の権威が高まったから。”
にい
最初はタカミムスビを祀ってたけど、みんなが鏡を見て畏まるようになったから、
途中で、お祀りする神様をアマテラスに変えたってこと?
みを
一神教だと、違う神様を受け入れるなんて絶対ムリだけど、
日本には、八百万の神様がいて、仲良く共存してるの。
昔は、天皇も仏教徒になったくらい、宗教には寛容で柔軟なお国柄なのよ。
だから、人々の求めに応じて、天皇がお祀りする神様を、タカミムスビからアマテラスに変えたとしても、
むしろ、日本的なマツリゴトとして自然だったと言えるんじゃないかしら?
にい
そっか〜。
他にも、まだまだ、ひみつはありそうだね?
みを
それは、あなたが見つけてみて!