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ラサの夜はふけて


Nov.25.2003





03年11月10日
6:00pm

実は先日のこと、チベット族のガイドに「チベット族の暮らしをもっと見たいですね」と、口にしたところ、
それならというので、なんとガイドの家に招かれることになったのだった。
私の勝手なお願いを、自宅に招くというかたちで叶えてくださるとは、
有り難く思ったり、たいへん申し訳なくも思ったりしたのだった。
ちょうど、ガイドの友人という日本人もチベットに来ており、一緒に夕食を、という話になったのだった。
どうもすみません。ありがとうございます。お世話になります。

というわけで、ガイドの友人の日本人の方と八角街の広場で待ち合わせ。
ほどなく現れた彼は、「I」さんといい。いかにも旅なれたバックパッカー風の好青年(30代)であった。
挨拶代わりにゆで卵をもらった。美味い。食欲の無かった私には嬉しいかぎりである。
その後、露店でバナナ、みかんなどの買出し。



このへんの道は下水工事中ということで、道を掘りかえされていて、ものすごく雑然としていた。
私の想像していたチベット的な街並み風景という感じではあったのだったが。



表通りへ出て、バスでガイドの家へ向かう。
ラサのバスは街を巡回しており、特に停留所は無いらしい。手をあげて乗せてもらう。料金は2元だったかな?



7:00pm

ラサ市郊外でバスを降りる。



肉を売る露店があったので、でヤクの舌の肉(牛タン?)の燻製?を買ってみることになった。






注文すると細かく切り刻んで、辛そうな調味料を何種類も絡めてくれた。
調味料は無いほうが美味しそうだったのだが。
私はIさんにおごってもらってばかりだった。どうもありがとうIさん。



ガイドの家は、すぐ裏手にあった。
白壁の長屋風の一部屋で、表にはビリヤード台がおかれていた。
軒先でビリヤードというのはチベットでよく見かける風景である。

ガイドの、チベット族の奥さんが出迎えてくれた。
ガイドはアムド出身で、実家も別にあるが、冬は寒くて帰りたくないということで、
ここに夫婦で家を借りているとのことだった。

部屋は質素なつくりで、6畳ほどの空間に、入り口と窓がひとつ、天井に裸電球ひとつ。
他に設備は何も無い。暖房設備も無いので夜は冷える。これで家賃は月200元(約2800円)という。

室内の一角に、プロパンガスとコンロが床の上に直に置かれている。そこが調理場だ。
別の一角に、ベッド、ちゃぶ台のような低いテーブル。
小さな棚の上にVCDプレーヤーとモノクロテレビが置かれていた。
日本でいうと、土間で暮らしているような感じである。
と言っても、なんだか、雰囲気はとても落ち着く。
ここは仮住まいではあるが、チベット族はおおむねこのような質素な暮らしをしているのであろう。
日本人のIさんも、旅の途中で、旧市街の安宿に泊まっているという。
今は旅行者が少ないので7つのベッドを一人で利用しているそうな。
ここでもまた、昨日までホテルの不満をガイドに言ってきた私が、
贅沢ばかり言っていたようで、なんだか恥ずかしくなるような気分だった。

もっとも、漢族の家はもっと近代的でゴージャスであるに違いない。そのかわり家賃も日本と大差ないだろうが。

そうしてるうちに、ガイドの奥さんが手際よく料理を作ってくれた。
街で食べるものよりも、変な味付けがしてないので、とても美味い。




チベット風うどんをちぎって鍋に入れているところ。

奥さんの手料理に食欲も回復したようだ。
が、情けないことに急には多くは食べられなくて残してしまったのが惜しい。
本当に申し訳ない思いだ。けして口に合わなかった訳では無いのであるぞ奥さん。



こういう家庭料理な感じのチベット料理なら、もっと日本人に受けるのではないだろうか。
という話をしたところ、実際にガイドとIさんは料理店を開いて、日本人観光客に喜ばれていたそうだ。
今は立地の関係で閉店しているらしい。また開店されれば繁盛間違いなしであろう。
他にもいろいろビジネスを計画しているようだ。成功を祈るのだった。

食後に、バナナとみかんをいただく。
ちなみに、チベットにくだものが持ち込まれたのは、まだ20数年前くらいらしい。
その前は野菜も無く、大麦、畜肉、バターが主な食材だったそうだ。
昔ながらの本当のチベット料理というのは、日本人にはとてもキツイメニューだったであろう。

11:30pm

すっかり話もはずみ、気がつけばこんな時間になっていた。
夜更けまでお邪魔させていただき、ありがとうございました。ガイドさん。奥さん。
ガイドの夫婦にお礼を言って、そろそろホテルへと戻るべく、Iさんとタクシーに乗る。
タクシーは、市内ならどこでも10元らしい。
ここでもIさんにタクシー代をお世話になってしまった。
どうもありがとうIさん。何もお礼ができなくて申し訳ない。また地球のどこかで。

03年11月11日
0:00am

ホテルの部屋に戻る。
表通りは、毎夜のごとく煩かったが、その騒音もこの部屋には届かない。よしよし。
今日はよく眠れそうだ。眠れるに違いない。眠ろう。眠るぞ。すや〜。

0:50am

寝入った頃を見計ったように、けたたましく部屋の電話が鳴る。
こんな時間に誰だよと出てみれば……。

中国語で「マッサージはどうか?」と聞いてくる女の声。
うるせええんだよ!寝かせれ!ガチャン!

1:00am

一度目がさめると、今度は何かの水音が気になり始める。
なんだろうと思えば、トイレの水が壊れてて少し流しっぱなしになっており、
それが部屋に響くのだ。バスルームの扉を閉めればなんとか静かになった。

もう、いいだろう。もう、寝かせてくれ。

4:30am

寒さに震えながら目覚める。

昨日まで、ホテルの部屋に暖房が無くてもとりあえず平気だったのだが、
なんか、この部屋ものすごく冷えるんですけど。
北向きの部屋というのが、こんなに冷えるものなのか?
こんなこともあろうかと、ホカロンを持ってきたのを取り出す。
小腹がすいたので、パンとみかんを食べる。
今日はフリータイムなので、もっとゆっくり寝たいということで寝なおす。

8:20am

寒さの中で目覚める。変な姿勢で寝ていたのか、首が若干痛い。寝違えたか?
ふと気がつくと、部屋の窓が半開きだった。
閉めとけよ!というか、これもしまりが悪くきっちり閉めないと、勝手に窓が開いていくのだった。
殺す気か?
弱りながら、パンをすこしかじる。

8:35am

ベッドでもうちょっと寝ようとしていると、鼻の奥がむずむずする。
いっぱい鼻血が出る。
ベッドが鮮血で染まる。
もう、ダメかもしれない。


<続く>




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