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謎の発掘物 天珠


Nov.17.2003







チベットの特産品には、冬虫夏草のほかにも、仏具やタンカが有名であるが、
なかでも天珠というものがある。
アクセサリーとして人気が高い、チベット族の御守りなのだという。
文様によって、三眼天珠、九眼天珠、と、さまざまな呼び名がある。



天珠とは、ネックレスのようにして、寺の中の仏様が首からさげていたり、たいへん有り難いものであるらしい。
ラサの街の露店でも、よく売られているものだ。 値段はピンキリである。
私は、泊まったホテルの売店で35元程度で手に入れた。
チベット族のガイドによると、きちんとした店で200元以上のものが良い物であるという事であったが、
私は、あからさまに樹脂製などの模造品でなければ、あまり素性は気にしない。
御利益を期待するわけでもないので、安ければ安いほうがよいと考えている。
(1元=約14円)

では、この不思議な文様の浮かび上がる天珠というもの、これはいったい何だかお分かりだろうか?


(使用カメラ:MINOLTA DiMAGE A1)


まず、驚かされることに、本物の天珠は人の手によって創られたものではない。
(もちろん、私が買った安物は、人の手による工芸品レプリカであるが。)
そして、天珠は、土の中から発掘されるものなのである。
大きな原石から削り出されるものではなく、このままの形で掘り出されるのだという。
チベット族は、これを「虫の化石」と信じている。
きっと何億年か前に、チベットあたりには、このような文様を持つ甲虫などがいて、
化石となった後、不思議な霊力を持つことになったのだろう。
チベット族がそう信じているのだから、疑うことは意味を持たないし、問いただすのも失礼にあたる。




私も、チベットに行く前は、天珠を「そういえば見たことはあったっけなあ」程度のものでしかなく、
現地でチベット族のガイドに紹介されて、現物を見せられ、あらためて興味を引くことになった。
いきなり、「あれ、虫の化石ですよ」と言われ「どれが?」と呆けてしまったわけであるが。
帰国してから、ちょっとネットで検索などして調べてみたが、どうも、あまり詳しい事はよくわからない。
一応、私が知りえた部分について書き留めておこうと思う。
間違いがあれば、そのつど修正していくことにしよう。


前述のように、もともと「天珠」というのは、「虫の化石」である(チベット族談)。
それが、チベット一帯で、土の中から発掘されて、装飾品などに加工されるようになった。
おそらく、長い歴史の中で人工的に天珠を作る技術も生まれたことだろう。
瑪瑙を使い、模様を描き、高温で焼き付けるという方法であるらしいが、
技術的にも謎が多く、詳しい製法はよくわからないのだという。
拡大してみると、文様が天珠の表層から中に染込んでいるのがわかる。
しっかり融合しているものもあれば、瑪瑙以外の鉱石によっては文様が剥離しかけているものもある。
高温でしっかり融合させられなかったからだろうか。
ただ、あまり融合させると、模様がぼやけてしまい、よろしくないようだ。
粗悪品と片付けるのは簡単だが、これはこれで貴重な資料なのだ。




これが、全部樹脂製の場合、文様は表面だけにペンキで塗っただけのような安っぽさがある。
そういう安物は、本当に何も知らない観光客向けに10元くらいで売られているようだ。
おそらくライターであぶれば溶けてしまうだろう。 私のものは、一応大丈夫だった。

樹脂製以外でも価格にばらつきがあるのは、作られた年代や場所によるものだろう。
タンカなども含めて、こういうものは、僧侶達が製法の伝承を受けて作っているらしい。
土中から掘り出されたものも、すべてが化石というわけではなく、
何百年もずっと以前に人工的に生産され、土中に埋もれた遺物も含まれていると考えられる。
あるいは、ペルシャあたりから持ち込まれたものもあるかもしれない。
そういう年代物は、かなり高額で取引きされているのだろう。
土中から発見された(化石以外の)天珠の実際の生産地、製作年代については あまり調査は進んでいないようだ。

気になる事は、土中から発見されたような、骨董価値のある天珠は、
台湾の業者によってほとんど買い占められているらしいということである。
以前、名古屋の中華航空機事故で、生還した台湾の乗客が天珠を身に着けていたということで、
台湾では御守りとして、大変人気になったらしい。
文様が豊富なので、コレクターズアイテムとしても申し分ないとは言える。
そして、チベットじゅうの骨董価値のある天珠が、台湾の業者によって買い付けられたという。
今では、精巧な模造品が台湾で生産されているらしい。
そのようなものが、もしかしたら、何十万円で売られているかもしれないと思うと複雑だ。
あまり考えたくないが、台湾製の天珠がチベットの売店に逆輸入されているかもしれない。
巡礼にラサを訪れたチベット族の人々が、神聖なものと買い求めていたりするかもしれない。



信仰の対象は、一方で、悪徳業者の金儲けに利用されやすい。
しかし、信心を持つものは、神聖なるものに、疑念を持つことすら悪しきことと考える。
私としては、観光客が騙されるのはどうでもいいことだと思うが、
疑うことを知らないチベット族が、海外から持ち込まれた高価な模造品を、
本物だと信じてつかまされていないかどうか、その点だけが気がかりではある。

チベット族は、信仰の中に生きる、とても純朴な人々なのであるから。





<続く>




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